4 ガララッ 「!」 教室のドアが開いて、バッと日下に手を離された。 ドアんとこに立ってたのは、安里。 用事は割と早く終わったみたいで、こんなことならコーヒー飲まずに残しときゃよかったな、とちょっと後悔。 「安里っ」 さっきまであれだけツンツンしてた山元が、やけに嬉しそうにドアへと近寄る。 いや、まぁ、うん。山元がどんなにやなやつでもさ、あの姿見たら嫌いにはなれねぇよな。 安里はまるでペットにそうするみたいに山元の頭を撫でていて、俺もしてもらおうと近寄ろうとしたら、腕を冷たい日下の手に掴まれた。 「…ポチ。安里は、ポチとトラを同じように扱ってる」 「……?」 いきなり何の話だよ? 俺は安里のところへ行きたいのに。 振り向いて、ぐ、と腕を引いてみるけど、やっぱり離してはくれねぇ。 日下は、いつになく真剣な顔をしていた。 なにか緊迫した空気がフワッとそこを覆って、俺はなにを言われるかわからなくて少し身構えた。 「……俺は、安里とポチの想いは違うと思う」 「…………」 ズキ、とどっかが痛んだ。 日下に握られてる腕じゃなくて、もっと他のどっかが。 想いが違う? 俺が安里を想うようには、安里は俺を想ってないって? そんなの。 とっくにわかってた…。つもりだった、けど、改めて言われたらやっぱりかなりキツイ。 つまり心のどっかで、俺は安里の気持ちを期待してたようだ。 …安里にとっちゃいきなり告ってきた変な不良だろうに、よくそんな期待を持ったもんだな、俺も。 「………」 なにも言えない俺が静かに落ち込んでんのがわかったのか、日下が慌てたように口を開いた。 「…いや、違う、そうじゃない…俺は、」 「帰るぞ、海斗」 ちょっと低い、安里の声が日下の言葉を遮った。 「えっ、…あ、あぁ」 安里の機嫌が悪い…ような気がする。 俺は日下の発言をとりあえず気にしないことにして、日下の手を振り払った。 俺を引き止めたときとは違う、力無く緩んだ手。 相変わらず、冷たい手。 「ポチ、ごめんな」 それから今まで聞いたことのないような暗い日下の声が、安里のもとへ駆け寄る俺の背中に小さく聞こえた。 けど、安里の不機嫌と日下の言葉に動揺しきってた俺は、その謝罪に応えることもなくドアまで近づいた。 [*前へ][次へ#] |