8 放課後に安里の教室まで行くと、日下はいなくて山元だけが机に座って(机の上、な)カチカチとケータイを弄っていた。 失礼極まりない話だが、山元は機械に疎そうだから意外だ。 「…山元、今日サンキュ」 黙ってしまったらなかなか言い出せないと思い、入るなりそう言った。山元は顔も上げずに画面を見つめたままだ。 「…なんや?頭でも打ったんか」 「…昼間、安里を呼んでくれただろ」 くそ、もうイライラしてきたぞ。俺は礼を言う立場なのにっ。…これって俺が短気なのか? 「は、あほか。呼んだんやないわ。ヒロに言うたらヒロが安里呼んだんや。…したら安里が俺を問い詰めてしょうがなく………やから、おまえを助けたんはまったくの不本意やわ。勘違いすな」 イラッ。 え?安里なんでこいつに感謝しろって言ったんだ?……俺まだこいつに感謝しねえとなんねぇ? 「…龍のペットになりゃよかったのに」 いやーもういいよな?もう感謝しなくていいよな? 「安里のペットは、俺一人で十分やろ…」 ボソッと、放課後の教室に消え入るような呟き。 あ、そうか。 こいつ…もしかしなくても。 「おまえ、妬いてんのか…俺に」 「な…っ」 ずっと画面を見ていた山元の顔がやっと俺の方を見たと思ったら、カッと真っ赤に染まった。それはもう茹蛸のように。 「うっさいわ、死ねボケっ」 「おっと」 山元がケータイ握ったまま殴り掛かってきやがったから慌ててそれを避けて、手首を思い切り掴んでやった。弱ぇなこいつ。 「離せっ」 もう片方の手も飛んできてそっちも難無く掴む。 「あぶねぇだろ」 「知らんわっ死ねっ死ねっ」 「おまえなっ」 どうすっかなこいつ…。追い詰められた猫のような錯乱状態だ。あ、虎か。俺じゃ手に負えねぇから、こいつの飼い主来ねぇかな。 日下、何してやがんだ。 ガラ… 「ん?何してるんだおまえら」 日下!なんてタイミングのいいやつなんだ。 「じゃれ合ってんのか?いつの間にか仲良くなったんだな〜二人とも」 ……空気は読めねぇみたいだけどな。 [*前へ][次へ#] |