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安里は真面目に最後のホームルームに参加してて、俺は教室外で壁にもたれかかってそれを待った。
泣き声も聞こえる。ガタガタと椅子を引く音が聞こえて、終わったかと思ってドアの横に立ってたら、一番に安里が出て来た。


「安里、卒業おめでとう」

「…おまえもだろ。最後サボったのか」

「サボった。最後に別れの挨拶とか、柄じゃねぇし」

「…ったく」


ばし、と頭を叩かれた。
目出度いってのに機嫌が悪い。準備やらなんやらで忙しかったからな。


「あれ、ボタンねぇ」

「取られた」

「…第二ボタンもかよ」

「知るか。いつの間にか一個も無かった」


どっかの安里のことを好きな女が持ってんのかと思うと微妙な感情が湧く。まぁ、女々しいけど。


「そうだ、話があんだけど」

「ん?」


卒業証書を持ってさっさと歩き出した安里に俺も付いて歩く。


「……あのさ、あー、母親に会ってくれねぇかな」

「………」


さっさと歩いてた安里が、俺の言葉を聞いて、ピタ、と立ち止まった。
ちょっと待ってみても、なにも言わない。


「あ…嫌、か?紹介しときたいんだけど」

「…母親って、おまえの?」

「…当たり前だろ」

「…無理だ、なんて言うんだよ」

「そりゃ、ちゃんと、恋人って」


なんとなく、ちょっとくらい喜んでくれるんじゃねぇかって思ってたのに、違ったらしい。
安里は無言で、無表情だ。


「なぁ、安里」

「…部屋、来い」

「いいのか?今日、もう学校最後なんだろ」

「いい」


そのまま歩き出した安里に、急いで付いて歩く。怒ってる、のか?なんで?そりゃ、もしかしたら手放しでは歓迎されねぇかもだけど、一生紹介しねぇわけにもいかないし。



無言でひたすら歩いて、安里の部屋に着いた。着いてからも無言で、安里がボタンの取れた制服を脱いで、着替えるのを見つめた。


「…おまえ、馬鹿だろ」

「…なっ」

「知ってたけど、やっぱり馬鹿だ」

「…これでも、それなりに考えて決めたんだよ」


まぁ、会長と話してからは即決だったけど。だって、子供も産めない俺が、安里を置いて先に死んだら、その後の安里のことが心配でしょうがないから。


「…俺、母さんと安里、仲良くなれると思う」

「…なれるか阿呆。息子が男連れて来て喜ぶ母親なんているか」


安里がイライラしながらソファに座り込む。こえぇしいつもだったら引くとこだけど、なんとなく、こればっかりは引けない。ひとまずどっちに転んだとしても、会わせたほうがいいっていう確信があるから。ほんと、なんとなくだけど。

俺も安里についてソファに近づく。


「そりゃ、変な男だったら嫌だろうけど、安里だから大丈夫だろ」

「…は、なんの根拠もない」

「そりゃ、根拠はねぇけど、だからって一生会わねぇつもりかよ」

「………………。……ったく、なんなんだよ、いきなり」


安里がふうと息を吐いて、ちょっと怒気も収まった。安里が折れた、というか、諦めたのがわかった。



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