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「ま、おまえも、家族を大事にしろよ」

「…俺は、安里と天秤にかけられるもんなんてねぇよ」


会長が何を言いたいか、俺にはわかっていた。俺があまり家とうまくいっていないことなんか、見通されてるんだろう。


「…陽がなくして苦しんだもんを、おまえは自分から捨てんのか」

「…捨てるわけじゃねぇ」


ただ、うまくいかない。
人を簡単に殴る父親に反抗してぐれたら、父親は病気にかかってあっけなく入院した。だからと喜んで更生するものでもなく、仲間もできてしまったし、今更優等生にもなれないままでいる。
弟は絵に描いたような優等生で、父親を憎みながらも真面目に生きていて、母親を支えている。
自業自得なのはわかっていても、なんとなく、居場所がない。


「…ちゃんと考えろよ。おまえらの関係は社会的にも生物的にも異端だ。家族として認められることもない、子を作ることもできない」

「…わかってる」

「おまえが死んだら、陽はまた一人になる」

「……あんたが、いるだろ」

「……鷹司の家じゃ、駄目みてえなんだよなあ」


おまえはわかってねえよ、と苦笑いされた。そうだ、わかってなかったかもしれない。ずっと恋人で、犬で、安里を支えていければいいと思ってた。死ぬまでそばにいるって。
けど、死んだら?

普通、夫婦のどっちかが死んでも、子供がいて、夫婦の両親、兄弟がいて、一人ぼっちにはならない。だけど、俺たちみたいな奴らは、どうなるんだ?


「…おまえの家族は、陽にとっても家族だろう」

「……」


初めて、安里を母親に会わせる想像をした。父と弟は無理でも、母親は、きっと。
二人だけで生きていくなんて馬鹿なことを考えていた。
けど、俺の母親が、安里を息子のように思ってくれたら、安里が母親のように思ってくれたら、そう想像するだけで泣けてくる。


「…会長、サンキュ」

「…ま、簡単なことじゃねえと思うが、頑張れよ」

「会長も。向こうで日下と」

「…ま、そうだなあ」


会長に比べたら、俺の家族のことなんて簡単なことかもしれない。じゃあな、と簡単に別れの挨拶をして、屋上を後にした。




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