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どっちだとも言わない俺に、安里は不機嫌そうにため息をついて、それから頭を軽く叩かれた。
「いてっ」
「…海斗、すんなって言えよ」
「え、」
「命令」
「え…っと、」
なんだこれ、命令しろって命令されてる。安里の命令ならなんでもできると思ったけど、これは難しい。
とかって考えてる間にも安里の眉間のシワはどんどん深くなって、結局俺に選択肢はない。
安里の目を見てたらとてもじゃないけど言えなくて、目を逸らしてなんとか絞り出した。
「…………………う、浮気すんな…」
「……」
やっと言えたと思ったら、言わせた本人がなにも言わない。しばらく待ったけど沈黙。
「おい…言わせといて…!」
「しない。約束する」
「え…っ」
思わず顔をあげてつっかかろうとした瞬間、目があった瞬間にそんなことを言われた。
目を合わせてそう言われて、なにも言えなくなった俺を、安里がふっと笑いながら撫でる。
固まったまま安里に顎を掬われてキスされた。
「信じろよ、馬鹿犬」
「……っ、」
安里が最後にペロッと俺の上唇を舐めて離れていって、これ以上はないんじゃないかってくらいに心臓が締め付けられて苦しい。
…俺はきっと今までとおんなじように不安になるんだろうけど、今日の安里の言葉があれば、信じられる。お守りかなんかを貰ったような気分だ。
「…安里、なぁ、好きだ…」
「ああ」
たまらなくなって抱きついたら、ちゃんと抱き返してくれる。色んなことをしたのに、抱き合うってことはあんまりなくて心臓が高鳴る。
すげぇ、ほんとに毎日新記録更新するくらいにどんどん好きになる。これ以上はないっていつも思ってる。
「おまえもするなよ。同じ大学のやつに尻尾振ったら一週間部屋から出さねえからな」
「…え、尻尾振るって、どのくらいから…」
「俺が不愉快に感じたら」
「……」
理不尽。さすが安里だ。
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