36 足りなかった。夢にみるくらい触りたくてしょうがなかった。 安里は珍しく俺のしたいようにさせてくれて、のしかかって抱きついてる俺の頭を撫でてくれた。 「…海斗、褒美やるって言ったの、覚えてるか」 「…覚えてる、けど、まじでくれんのか」 いつもぎりぎりで点数が足りなかったりして貰ったことがなくて、貰えると思ってなかった。 「言ったことは守る」 そう言いながら安里がポケットからごそごそとなんかを取り出して、その銀色の何かを俺の前にぶら下げた。 「…なんだコレ、なんの」 安里が取り出したのは、銀色の鍵だった。とりあえず受け取って、けど意図がわからなくてどんな反応をしていいのかわからない。 合鍵とかじゃ、ない。この安里の家は暗証番号式だから、鍵は要らないはずだ。 困って狼狽えてたら、安里が笑いながらもう一つ同じ鍵を取り出した。 「部屋を借りたんだ」 「…部屋?」 「ここよりも狭いけど、おまえの部屋もある」 「…え、」 「朝起きた時に目の前におまえがいる、そういう生活をしたいと思ったんだ。…な、一緒に暮らそう」 「……、」 全部を安里の言う通りにすることが正しいのかわかんなくなって、結局別々の大学に進学することにした。頭ではそれは間違ってねぇと思ってても、別々の大学だともう関係も終わってしまうんじゃねぇかと、怖かった。正直後悔も迷いもあった。 けど、まだ一緒にいていいんだ。 「…あさと、」 「…ほら、来い」 安里が頭を抱き寄せてくれて、首筋に顔をうずめた。 …やべぇ、大泣きしそうだ。 [*前へ][次へ#] |