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「…なぁポチ、いい加減にせえや」


「…山元、」


「おまえ卑屈すぎて一周回って自己中やぞ。安里の気持ちも考えたれや。安里がおまえのこと死ぬほど好きやったら、どこぞの女と家族つくれとか言われたら落ち込むやろ。ま、ないやろうけどな!」


あーあー安里が可哀想や、こんなやつどこがええんや、と散々わめきながら、山元は立ち上がってドアのほうへフラフラと歩き出した。


「……安里の気持ち」


山元の発想は、俺をちょっと底から救い出してくれた。思考を少し他へ動かせて、深く深く掘り進むのをやめることができた。


「…トラの言ってること、むちゃくちゃだけど俺も同意するよ。安里が側に置いてるんだから、たぶんおまえのこと死ぬほど大事にしてるし、あんなでも好きなんだと俺は思うよ」


「…いや、んなわけ、ねぇだろ…」


「…だぁから、それをやめろって言うとるんやろ。…そんな信用出来んのなら、本人に聞いてみろや」


ドアを開けようとしながら、山元が俺を睨む。相談に乗るのも飽きたらしい。


「聞けたら苦労なんか…!」


「あーうざい」


ガラッ…


「俺が言ったこと間違ってないやろ、な、安里?」


「は……?」


山元の言葉と、視界に映ったものに、俺の思考は完全に停止した。


教室のドアは上半分が磨りガラスで、下はガラスはない。その、さっきまでドアで隠れていただろう部分に、二つの背中が見えた。


「…あさ、と…」


ぶわ、と冷や汗が滲み出た。


山元となにかを話しながら二つの背中、安里と会長が立ち上がった。なにを話してるかは聞こえるのに聞こえねぇ。


日下も知らなかったらしく焦っていたけど、俺はそんなレベルじゃなかった。頭ん中が沸騰して、視界が霞んで、もうすぐ冬なのに異常に暑い。


山元はそのまま出ていって、会長は一回入ってきて日下を捕まえて出ていった。教室に二人きり、心臓が破裂する。


「海斗、」


安里が近寄ってくる。


びく、と身体が震えて、咄嗟に、逃げ道を探した。


ふらふらする足で、安里が入ってきたのとは違うドアに逃げる。


「海斗!」


ドアに手をかけようとして、安里に強く名前を呼ばれた。


「逃げずに、こっち向け」

「…っ」


逃げたい、逃げたい、と全力で頭ん中で叫んでんのに、安里の命令には逆らえない。安里の目を見るのは怖ぇけど、ゆっくり振り向いたら、安里の目に自然と吸い込まれた。




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