26 それからしばらく、俺の頭は安里の言葉に完全に支配されてた。相変わらず安里には勉強を教わってて、順調に知識を叩き込まれてる。 毎日会ってんのにあの話にはならない。安里は冗談で言ったのかもしんねぇとか思うけど、あの表情が、冗談じゃねぇような気がする。なんとなくだけどな。 「ポチ〜おまえ元気ねーなぁ」 今日は、久々に日下と山元と教室でダラダラしてる。安里と会長が引き継ぎで生徒会に顔を出してるから、待ってる。本当は勉強をしておけと言われたけど、いつのまにか集まってダラダラしていた。 「安里となんかあった?元気ない」 俺の前に座ってる日下が、頭をぽんぽんと撫でながら聞いてくる。 「…元気、ないか俺」 「ないよな、トラ」 「うざい。辛気くさい顔すんなや」 「……」 なんとなく、相談してみようかという気になった。結論は俺が出すにしろ、意見を聞いてみたかった。 「……な、お前らってさ、好きなやついんの」 「えっ」 「ぶはっ」 俺が言った瞬間、日下が目を丸くして、山元は吹き出した。きたねぇな。 「おーよっぽど悩んでんだな〜まさかポチと恋話する日が来るとは!」 「おい、安里との話聞かせてみろや」 「ちょ、そこ聞いちゃうのかよ!まぁ確かに安里もなんも言わねーし、興味はあるよな」 勝手に盛り上がり始めた。なんでこいつらこんな楽しそうなんだ。 「ほらほら、俺たちが聞いてやるよ」 「…俺の状況で、お前らだったらどうするかを聞きたいんだよ。だから、とりあえずお前らに好きなやつがいるか教えろ」 「えっ、トラは…いるよな!」 「まぁな」 日下はなにか慌てて山元に話を振ったが、山元は意外にもあっさりと首を縦に振った。 「コイツ高校卒業したら就職して、結婚するんだよ。幼馴染みと」 「え、本当かよ!」 驚いて山元の顔を見たら、山元は当たり前みてぇに頷いた。進学校のうちの高校では就職するやつすら珍しい。その上結婚とか、なんかすげぇ。色々考えてんのか、山元も。 [*前へ][次へ#] |