毎冬恒例
「なまえちゃんってさぁ、実は目が悪い?」

問いかけた佐助の表情は酷く怪訝そうで、私の返答を待つより先に煎餅をガシリと齧った
私もコタツの上に置かれたお皿に盛られている煎餅を一枚手に取り返事をする事なく彼と同じように煎餅を齧る
目が悪い?と今まで誰かに問われた事は無い、寧ろ私の視力はとても良く普段から友人に自慢しては羨ましがられる程だ
現在私達が居るのは佐助のアパートの部屋の、コタツの中
佐助は私の左隣、私から見て右隣にはかすが、真ん中に私で、私から見て向かい側には誰の姿も無い
なんとなく皆で集まってみたら見事に全員コタツムリ、誰一人としてコタツから出ようとせず誰かが出ないかと待ち続けている
が、誰も立ち上がらないのは当然立ち上がったと同時に彼是と頼み事をされると分かっているからだ

「なまえは眼鏡要らずな程視力が良いだろう。」

「そうだよ。佐助、どうして急にそう思ったの?」

私が答えるより先に佐助の疑問を否定したのはかすが、けれど視線はテレビに釘付け
本当は私が先に見たい番組があるからとリモコンを一番に手にしたのに少し目を離した隙にチャンネルを変えられてしまった
彼女が真剣になって見ている番組は『茶室の窓から』…まぁ、彼女が最も崇拝している上杉さんがメインの番組なので譲ってあげて、今日くらいは『野次馬戦隊野次レンジャー』を我慢しようじゃないか

「だって普段から風魔の事頻りに可愛いって言うじゃん。」

「可愛いから可愛いと言っているだけなのに…え?もしかして佐助からして小太郎って可愛く見えないの?」

次に疑問をぶつけたのは私の方、そして佐助は何も言わずゆっくりと首を縦に振った
私の最愛の恋人である小太郎が可愛く見えないっての?佐助こそ目が悪いんじゃないの?
目だけじゃ無くて頭の中も、と追加しておこう
例え二人が同性同士だとしても小太郎が可愛く見えず可愛く思えないってのは病気でしかない

「訂正して。小太郎は可愛い。そりゃもう国宝級に。国が保護しなきゃってくらい可愛い。」

「えー…可愛い、かなぁ…それ。」

頬を引き攣らせながら佐助が指差した『それ』とは私の膝を枕代わりにして可愛らしくスゥスゥと眠っている小太郎だ
先程は説明不足だったがきちんと説明すると私の向かい側に誰も居ないわけではない
ただ小太郎が向こう側から此方まで潜り体を縦に寝転べているから誰も居ないように見えるだけ
体の大きい小太郎が殆どコタツを占領しているので狭いと感じない事も無いけれどこの可愛い寝顔を見ればそんな事はどうでもよくなる
向こう側ではきっと彼の長い足が半分以上が出ているだろうからそこを寒いと思っていないかが心配だ

「当然可愛いよ。佐助にこの寝顔を見せてあげたいくらい。でも小太郎の寝顔は私だけの物。これ常識。」

「いや、俺様別に見たいとか言ってないし…。」

「って事で佐助、小太郎の足が寒そうだから毛布でも掛けてあげて?」

「嫌だよ!!」

全力で拒否した佐助はガツンと拳をコタツのテーブルへと叩き落とし、その騒音によって青筋を浮かべたかすがが私達へ殺気を向けた
なんて恐ろしい表情…彼女の上杉さんタイムの邪魔は万死に値するので気を付けなくては
しかも小太郎が起きてしまった、折角気持ち良く眠っていたのに可哀想に
布団を手渡す気が無ければ小太郎の睡眠を妨害するだなんて外道、佐助は小太郎に何か恨みでもあるの?

「…ん…なまえ…。」

「あー…起こされちゃって可哀想に…まだ眠っていて良いからね?」

まだ半分眠っている小太郎はゆるゆると動き、少しだけ顎を上に向かせ私と視線を絡めた
眠そうにトロンとした表情がまた可愛いと頬が緩んでしまう、やっぱり佐助が何と言おうと小太郎は可愛い
この表情を見せれば佐助は自分の言動を悔い改めるだろうが佐助如きにこの可愛い可愛い小太郎の表情を見せるなんて勿体ない、楽しむのは私一人で充分だ

「…なまえのここ…温かい、し…安心する。」

「くぁーっ!!可愛いなぁ、んもう!!」

彼がスリスリと頬を摺り寄せたのは頭を預けている私の膝
私の膝で良ければいつでも貸してあげるし、私の膝を枕代わりにして良いのは当然小太郎のみに許される
此処が佐助のアパートでは無く私か小太郎の部屋であれば今以上に小太郎は私に甘えてくれるのに…佐助とかすが、気を利かして外出しないかなぁ

「そこ!!人様の家でニャンニャンしない!!」

「五月蠅いぞ佐助!!殺されたいか!!」

一人身である佐助の妬みはかすがの怒声のお陰ですぐに納まり、やり場のない怒りを佐助はグッと耐えて再び煎餅をガシガシと齧り続けた
羨ましいなら素直に羨ましいと言えば良いのに、佐助なんて一生一人身で生涯を終えちゃえば良いんだ
私と小太郎はラブラブでかすがと上杉さんもラブラブ、そして佐助は一人ロンリーボーイ

「小太郎、足は寒く無い?」

「…少し。」

「ほら佐助、小太郎が寒いって言っているんだから早く毛布でも羽毛布団でもかけてあげて。これで小太郎が風邪ひいたら皆に佐助は小さい頃に男性教師から卑猥な悪戯されてるって暴露しちゃうよ。」

「や、暴露も何もそんな事実無いからね!!」

否定しながらも他の部屋へ駆け出した佐助は相当その悪質な噂を流されたくないようで、すぐに大量の布団を抱えて戻って来た
次にはドサドサとコタツからはみ出ている小太郎の足へと落として、これで良いかと言わんばかりに私を睨んだ
荒々しい方法だから素直に納得出来ないがこれ以上お願いしても彼は機嫌を損ねてしまうから今回はこれで許してあげよう
それにようやく全身が温まった小太郎は嬉しそうに私を見上げ、太股へくすぐったくも触れるだけのキスをくれた
ちょっと皆さん聞いて下さいよ、私の彼氏ってこーんなに、こーんなに可愛いんですよ!!
どうしよう、焼き芋屋さんの車をジャックして町内を走りながら如何に小太郎が可愛いかを宣伝したい!!

「さて、と…あ、そろそろその番組終わる?俺様次に『嘲笑う犬の冒険』見たいんだけど。」

「何言ってるの?佐助は一度コタツから出たんだからついでにコンビニでアイスを買って来て。私はリッチミルクね。」

一度コタツを出たら皆の奴隷、これはどの家庭でも暗黙のルールとなっている
私がお願いをしたからであっても確かに佐助は一度コタツを出てまだコタツの外、つまり彼は今皆の指示に対し素直に従わなくてはならない

「私は抹茶で良い。」

「…俺、は…アップルシナモン。」

「お前ら全員、覚えてろよ!!」

畜生!!だなんて吐き捨てて部屋を飛び出た佐助の台詞はまさに負け犬の遠吠え
彼が部屋を去った後の私達は何も変わった様子無くそれぞれが好きに過ごし、何を覚えていれば良いのかと理解出来ずに皆で首を傾げた


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あきゅろす。
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