それぞれの葛藤
「ごめん、無理。」

「…限界。」

負けずにもう一度無理だと私が言うと、小太郎の顔が少しだけ苦痛に歪んだ

私の体は仰向けにベッドに埋められていて、その私に跨ったままの小太郎は私の顔の両サイドへ腕をついている

久しぶりに彼の部屋へ遊びに来たのに、まさかこんな事になるなんて

ベッドをソファー代わりにしてDVDを楽しんでいたら、突然彼に押し倒された

文章にするととても簡単な事、でも実際それを行われた私の心臓は爆発寸前だ

ストイックに見える彼だってやはり男であってそういう欲求があるのは分かっているし、いつかはこの時が来るとも分かっていた

分かっていただけで、全く心の準備も覚悟も私には出来ていない

「限界って言われても…困るよ。」

「俺も、困る。」

「…どうしても?」

「どうしても。」

こんな時に限って喋るんだから卑怯だ

それとも限界と口にした通りそれだけ切羽詰まっている、とか

相変わらず私を見下ろした彼の瞳には熱が含まれていて、あまり視線を絡めていると流されそうになってしまいそうだ

彼には悪いが逃げたい、絶対にしたくない

まだ早い気もするし、何より知らない事への恐怖だってある

「…今度じゃ、だめ?」

「いつ。」

「………いつが良い?」

「今。」

即答した彼の掌が拳に変わって、本当に切羽詰まっている事が分かった

出来るなら結婚初夜、なんて言うつもりだったけれど今の彼がそれを承諾する事も無いだろう

彼がベッドに突いたままの拳に力を入れると自然に私の体もまたベッドへと沈んだ

今朝スカートを履いた自分を怨んでしまう、少しでも動けば捲れてしまうじゃないか

「…絶対、今?」

「絶対、今。」

「…恐い。」

「………。」

ついに本音を言えば、彼の眉間の皺が深まった

男である小太郎にとっては欲を満たす為の行為かも知れない、でもそれを受け止めなきゃならない私の負担も考えて欲しい

体格差だって充分あるし、初めては痛いと聞いているから彼の、となれば相当痛いに決まっている

見た事があるわけでもないけど何もかもがパーフェクトな彼だから、きっとパーフェクトなんだろう

「…ね、お願い。また今度にして?」

「………。」

クイクイと彼のシャツを掴んで頼んでも反応無し、一人脳内会議中でもしているんだろうか

お願いだから今回ばかりは見逃して、あとで膝枕をしてあげても良い

なんなら腕枕だって、この際してあげる

「………。」

「や、だって…やぁ、やめ…っ!!」

突然遠慮なしに掴まれた太股を撫でられ、背筋がゾクリと震えた

私の抗議だってお構いなしで、いくら必死に胸板を叩いても彼の動きは止まらない

続いて服の中に忍び込んだ腕が胸元へ伸び、首筋への口づけに喉が引き攣った音を立てる

嫌だ、恐い、こんなのは私の知っている小太郎じゃあない

「そんなに、嫌か。」

「…嫌じゃ、なくて…こわい。」

ようやく掌の動きはとまったのは、私が本格的に泣き出して視界が歪み始めた頃

未だに太股を掴んだ腕も少しだけ力が弱まっていて、それはおずおずと離された

小太郎を拒んでいるのはなくて、行為を拒んでいるだけ

伝えようにも声は上ずっているから、きちんと彼に伝わったのかは分からない

「…悪かった。」

「………うん。」

溜息一つついた彼がゆっくりと上から退くと、情けなく泣き続けている私を起き上がらせて膝に乗せてくれた

そのまま腰に回された腕は普段と変わらず、優しくて先程いやらしい事をした腕と同じには思えない

背に感じる彼の鼓動は少しだけ早いけれど次第に治まりつつあるから、もう大丈夫だと安心して胸を撫で下ろす

「ごめんね?」

「良い。」

「怒ってない?」

「…別に。」

そう言った彼をクルリと振り向いて見れば、拗ねたように唇を尖らせているのが確認出来た

怒ってはないけれど、お預けに対しての不満はあるようだ

「…また今度、ね?」

「なるべく、早めに。」

分かったと形ばかりの返事をすれば、甘えるように彼が首筋に鼻を埋めた

その行為さえ、ドキリとしてしまう私が彼を受け入れる日が訪れる事はあるだろうか

兎も角、またこの時が来る日まで何か対策を考えなくてはと頭の隅で考えさせられた


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あきゅろす。
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