猟奇的な彼女
「小太郎君、今日も素敵だね!!愛してるよ!!」

自宅の門を出てすぐに現れたのは同じクラスのなまえ
何故俺の自宅を知っているんだとか、何故俺を待ち伏せしていたんだとかは考え無い
答えは既に出ている、コイツが俺のストーカーだからだ
その上たちの悪い事に自覚無し、警察に突き出すと脅してもポカンとした表情で「何で?」と言うのだ

「今日もお弁当作って来たんだよ!!一緒に食べようね!!」
「………。」
「そ、そんな有難うだなんて…っ!!私は彼女として当然の務めを果たしたまでだよ!!」

誰も有難うだなんて言って無い、そしてお前は俺の彼女ではなくストーカーだ
そうは言いたいが言った所で意味は無い、都合の悪い言葉は彼女に通じないらしい
朝から五月蠅く頭の沸いた奴が隣を歩いて登校は不快だが諦める以外俺に術は無い
逃げても無駄、妙に足は早く俺が屋根に登ればコイツも登る
たまに本多の背に乗りジェットモードで追いかけて来る事だって少なくは無い
無駄に体力を消耗するならこうして好き勝手にさせておいた方がまだ良いだろう

「どうして昨日は電話もメールも返事してくれなかったの?私沢山着信も入れたしメールも送信したのに。」
「………寝てた。」

あれだけ沢山の着信入れられメールを送られて誰が返事なんて出来ようか
それもメールの内容は全て似たり寄ったり
「今どこ?」「会いたい。」「声が聞きたい。」と恐怖を感じる以外他無い
ここ最近俺はずっと携帯はサイレンモードにしたまま放置だ

「そっか!!それなら返事も何も出来ないよね!!でも今日こそは起きててね!!もう、小太郎君ってばいっつも寝てるんだから!!」

いつも思う、どういう環境で育てばこれ程までにポジティブになれるのかと
自分の頭が幸せな分、俺が不幸せを感じていると少しで良いから気付いてくれ

「たまには小太郎君から電話してくれたら嬉しいな…なんてね!!小太郎君がいつ電話かけて来たりメール送信して来たりしても良いようにサイレントモードじゃあなくてサイレンモードにしてるから!!」

俺から着信にメールなんて先ず有り得ない
今後二度と俺に関わらないと誓えるならば最後にとワン切りくらいしてやるかと思える程度だ
面倒くさい奴だな、誰か頼むからコイツを保健所でも研究所でも良いから遠くに連れて行ってくれ

「あ、小太郎君消しゴム貸して?」
「………。」

朝の面倒な登校を終えれば再び教室にて地獄が始まる
新学期当初、コイツと俺の席は随分と離れていた筈だ
しかし惚れられたが最期、何時の間にかお互いの席を勝手に数ミリの隙間もなくくっつけられた
何度離しても効果は無く、何度もコイツの席を焼却炉へ放ってやったが翌日には真新しい机が設置されている
おい、消しゴムを貸してはやるが使っていない方の角を使うな

「小太郎君、美味しい?」
「………普通。」
「もう!!そんなに褒められたら…なまえ照れちゃうっ!!」

うざいとはコイツの為に作られた言葉なんだろうと屋上で強制的に昼食を食べさせられながら思う
言葉にした通りコイツの手料理は普通、不味くも無ければ上手くも無い
桜でんぷんで『LOVE』と記された米は毎回必ず掻き混ぜて食べている
そもそも俺が自分で作った方が料理は断然と美味い
それでもどうせコイツが作って来るのは分かっているし弁当を用意する面倒が減るならこのくらいは我慢出来る
馬鹿となんとかは使い様と言うからな

「明日のデートは何処に行く?私小太郎君となら何処でも良いよ!!あ、御実家でも良いからね!!」
「………。」

明日は休日、それでもコイツに付き纏われるのかと思うと溜息が漏れた
せめて土日の二日間くらい俺に自由を与える気は無いのか
デートと言って強制的に外出させられても子守りをさせられている気がしてならない

「無理だ。用事が…ある。」
「え。」

このくらいの嘘は許される、そう思って口にしたが相当の衝撃だったらしく箸をカランと落とされた
何だ、何故俺が悪者のような気分にならなくてはならないんだ
俺は悪く無いだろう、ずっとお前のストーキングに耐えているのだからたまには休みをくれ
そんな悲しそうな目で俺を見るな

「ふ…ふぇ…。」
「…、おい。」
「デートの為に…沢山、お洋服買ったのに…っ!!沢山、イメトレも、したのに…っ!!」
「分かった、出かける。」

洪水警報、泣かれるのは本当に面倒で手がかかる
だから俺が諦めなくてはならなくて、泣き叫ぶ寸前であったなまえは俺の返事にケロリとした態度で「良かった。」と答えた
まさか演技じゃないだろうな、もしもそうならば今すぐ頬を抓ってやる

「小太郎君大好き!!明日は沢山写真撮ろうね!!」

そう言いながらも勝手に俺を撮影し始めたコイツはきっと人類初の珍種だ
容姿は良いのだからストーカー体質では無く、もう少し頭がまともであれば付き合うかを考えてやるのに
当然そんな事は告げぬまま、明日の苦労を考え今日は早く眠ろうと決めた


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あきゅろす。
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