使用方法は人それぞれ
「わー!!」

社長室とプレートが一枚掛けられた扉を開けばとても広い部屋が現れ、思わず子供の様な声が上がった

床一面に敷かれている真っ白な絨毯を汚さないよう、何度か扉前にあるマットで必死に靴底を磨いて小太郎さんより遅れて中に入る

やっぱり大きな会社だけあってその上に立つ人物の部屋も広い

大きな窓にはブラインドが付けられていて、上げられている方の窓へ移動して外を覗けば自分がどれだけ高い場所に居るのかが分かった

(人がゴミのようだ!!)

「む、望遠鏡?」

私が居る場所の少し先には大きな観葉植物があって、その後ろに妙な物を見つけた

妙と言うと聞こえが悪い、でもそれが何故此処にあるのかが分からない

かなり高価なそれはきっと夜空を眺めるにはもって来いだろう

でも彼はいつも定時には帰宅しているのを私は知っている

そしてそんなロマンチックな趣味があるなんて聞いた事が無い

「…外見るの、楽しい?」

後ろから顔の両サイドに彼の両腕が伸びて、窓に張り付いたままの私の両手に彼の両手が重なった

背に彼のお腹がくっついている…み、密着!!

恥ずかしい、何でこんなにも恥ずかしい思いをしなきゃならないんだ!!

何より耳元で喋られては、喋られては…っ!!

言葉を発せずに、ただ必死で頷いている間も耳元には彼のクスクスと楽しそうな笑い声が届いている

調子が狂う、何度思い出しても今までこんなスキンシップは無かった

「あう…あ、あの…望遠鏡、が。」

「ああ…たまに、使うから。」

いい加減離れて欲しい、でもそんな私の願いは通じず彼はそのままで喋り続ける

彼がたまに使うと言ったんだ、なら本当にたまに、使っているんだろう

別に何も問題無い、ロマンチックで良いし、益々彼の魅力に磨きがかかって良いじゃないか

「今度、一緒に星とか、見る?」

「お、仰る通りだと思います…っ!!」

重なった掌の次には指を絡められて、彼が何を言っているのかも分からなくなってきた

顎を肩に乗せられては更に顔が近付いてしまう、この状況でよく彼は笑う事が出来る

今何て言ったの?

私何て言ったの?

何で顔近いの?

何でこの人こんなに素敵なの?

私爆発して死にそう!!

「おーい、仕事。」

「!!」

「………。」

後ろから声がして、すぐに振り向けばあの猿飛さんが呆れた様な表情で扉の側に立っていた

ちょ、ちょっとだけこの状況的に助かったかも知れない

小太郎さんが舌打ちをしたような気がしたけど…気の所為だよね!!

小太郎さんはそんな事しないもん!!

「昨日ぶりだねー。俺様は佐助で良いから、よろしくね。」

「あ、よろしくお願いします!!」

「いてっ。」

ヘラヘラと笑って挨拶をされながら腕を伸ばされた、きっと握手だ

だから私もきちんと挨拶をしながら腕を伸ばしたのに、触れる直前で小太郎さんが彼の腕をペチンと叩いた

どうしたのか分からない私に、小太郎さんは一度笑顔を向けると佐助さんの腕を掴んで部屋の隅へと移動した

何かひそひそと喋っているようだけど何の話だろう、蚊帳の外である私はただ二人を遠目に見ているだけ

「分かった、分かった。ノータッチね、了解。」

「………。」

「そんな睨むなって、大丈夫だってば。」

何の話しだろう、小太郎さんが怒っているように見えるけど…多分これも気の所為

ノータッチ?何かに触れた?重要書類にでも触れて怒られている、とか?

ううん、小太郎さんが怒るなんて想像出来ない

「はい、なまえちゃんのデスクはここね。」

「…ここ、ですか。」

話しが終わったのだろう、佐助さんは私を手招きするとデスクを指差してそう言った

ここ、それはそのデスクよりも遥かに大きく高級そうな机の隣

つまりは小太郎さんの隣、秘書ってそこまで一緒に居る者なのか

「この机、嫌?」

「ま、まさか!!可愛くて、とっても気に入りました!!」

どこか悲しそうな小太郎さんの声に焦って素直に返事を返す

すぐに嬉しそうな笑みを見せられるから心臓がもちそうにない

このデスクが私の…正直オフィスデスクとは思えない

ガラストップだし、椅子も机も猫脚(それが一番気に入った)

「パソコンはこれねー。好きに使って良いから。」

「え、これ、私専用ですか?」

「当然。ネットでも何でも、好きにしちゃって。」

テーブルの上にあるノートパソコン、これもまた私の好きなパールピンク!!

好きにして良いなんて、前の会社とは大違い

当然だけど少しでも私用で使えば延々と嫌味を言われる始末、それでも佐助さんは好きにして良いと許可をくれた

流石にデコったりなんてしたら怒られるだろうなぁ、仕事で使うものだし、その辺りはきちんとしなくちゃ

「それじゃ、何か困った事があれば俺様…いや、風魔を頼って頂戴。心情察するけど、頑張ってね?」

「う?わ、分かりました!!頑張ります!!」

それだけ言うと、佐助さんは分厚い封筒を小太郎さんへ手渡して部屋を後にした

変わっている人だなぁ、心情を察する?

まだ私の身内に不幸があったと勘違いしている、とか?

分からないけど、また彼と二人きりとなった事に酷く緊張してしまう

「…座らないの?」

「す、座ります。」

既に腰かけている彼に言われてすぐに椅子を引いて腰を下す…うう、可愛い、何もかもが可愛い

隣同士なんて小学生以来だ、それも相手が小太郎さんとなれば万々歳!!

何をしたら良いのかな、伝票の整理とか…備品の発注…いや、それは…

「私、何をしたら良いですか?」

「…ネットとか、好きにして良いよ。」

「へ?」

それじゃあ仕事にならないし、わざわざ秘書として私を雇った意味が無い

好きにして良いと言われるのは嬉しいし正直ネットだってしたい

でも本当にそんな事をすればただのお荷物、だからきっと小太郎さんの冗談

…だと思ったのに、彼はただ私を見ているだけで、何も言わなくなった

(本気で言っている、とか…?)
(…佐助は減給。)


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