友人兼通訳
「…ど、どうしよう。」

解決策が見つからぬまま同じ疑問を繰り返し、私は盛大な溜息をついた

悩みの種である風魔君からの着信は止まず、30秒毎に不在着信が増えていく

私が勝手に彼との通話を切ってからの着信は40件…あ、41件に増えた

どうしようと悩むよりは大人しく電話に出たら良いとは分かっている

でもまた彼が私に喋ってとか、声を聞きたいとか、妙なお願いをした場合の対処法が分からない

「…ん?」

延々と続いていた着信が止み、一通のメールが届いた

ディスプレイには彼のアドレスと名前が表示され、携帯電話を握る手が緊張で震える

ゆっくりと開いたメールの本文に私は首を傾げ、失礼ながらも彼の人格を疑った

<このメールに本文はありません>

これが何を意味するかお分かり頂けただろうか

無言電話の次には白紙メール攻撃、反撃として私は彼に三点リーダーのみの無言FAXを送りたい

当然そんな度胸も無いので真っ白のディスプレイを睨み、二度目の溜息をつく前に彼のミスに気付いた

【でんわでろ】、このメッセージが件名に打ち込まれているではないか

よほど急いで打ち込んだのか、それともわざとなのかを確認するのも億劫だ

絵文字の無いメールはどうしてこうも相手の怒りが伝わり、此方が申し訳無く思ってしまうのだろう

彼が絵文字を使わない性格だとしても、変換すらされていないのはかなり御立腹なのでは?と不安になる

「…私は何も見なかった!!」

返答に迷った末に、私は電源ボタンを数秒押し続けディスプレイが真っ暗になったのを確認した

私は何も見ていないよ?

メール?何それ?

充電切れちゃってるから知らないよ?

よし、万が一の時はこの嘘を使おう

また彼のメールを受信しない為にも今日は電源を落としたままにして、全て気付かなかったフリをするのが得策

もうすぐスーパーでは割引シールの貼られる時間だから、そろそろお買い物へ行こう

風魔君とばったり遭遇、それだけはあって欲しくないなぁ

「やったね。半額ワゴンだ。」

制服から私服に着替え、財布を持って外に出ると空は夕陽で赤く染まっていた

無駄な事で時間を潰してしまったと後悔をしつつ、自転車を漕いで向かったのは自宅から最寄りのスーパー

両親が仕事の事情で殆ど一人暮らしの状態に近い私は全ての家事を担い、食事もまた同じ

苦痛に思いはしないが、大好きな両親が居ないのはやっぱり寂しい

と、思うのは週に一度、あるか無いか

久しぶりの感傷に浸っていた私はお菓子の半額セールを見つけた途端両親の顔も忘れ、ちびっ子に混ざってワゴンの中に腕を伸ばした

「お、なまえちゃんじゃん。何それ、買うの?」

「あ、通訳さん。」

「え?なに?」

「ううん、何でもないよ!!」

ワゴンの中に珍しいお菓子を見つけ、手に取って確認した値段は税込み88円

カレー味水飴手作りキット、美味しそうなのにどうしてこれが沢山も売れ残っているのかが不思議だ

もしかすると不味いのかも知れないと考えていると背後から声をかけられ、振り返った先に居たのは佐助君

ついうっかり心の中だけでのあだ名で呼んでしまい、笑顔で誤魔化した私に彼はきょとんとした顔を見せた

買い物途中である彼のカゴの中身はもち米と小豆…赤飯でも炊くつもりか

遭遇したのが風魔君であれば私はカゴを放り投げ、自宅へ猛ダッシュで帰宅していた

それなりに親しい仲にある佐助君との遭遇は嬉しく、この際だから風魔君とのコミュニケーションをどうすべきかアドバイスを貰おうと閃いた

「なまえちゃん、風魔からメール来た?」

意外にもその話題は彼が先に切り出し、表情はニンマリと嬉しそうな笑顔

普段から胡散臭い笑顔を張り付ける彼の本当の笑顔を見た気がして、私もつられて笑顔になった

ヘラヘラと笑う彼はとても上機嫌、何か嬉しい事があったのだろう

折角上機嫌である彼に、つい先程の出来事を打ち明けてしまって良いのか不安だ

「佐助君との電話もそうなの?」

「…いや、俺様は電話なんてしないし…メールも殆ど無いよ。」

二人で店内を歩き、申し訳無く思いながらも風魔君との話をゆっくりと打ち明け終えた頃

佐助君の笑顔は完全に崩れ、疲れ果てた表情に老いを感じた

どうやら無言電話攻撃を受けたのは私だけで、彼との電話は先ず有り得ないようだ

メールも頻繁にはせずに極稀、それでも短い会話が一応は成立するらしい

どうして私だけが嫌がらせ染みた行いをされたのか、益々分からなくなってしまった

今日まで私は風魔君を不思議な人だと思い、そのミステリアスな部分が素敵とも思っていた

今は別、風魔君は極度の変人だとしか思えない

「恐くなったから電源を落としちゃったんだけど…怒ってないかなぁ。」

「うーん…俺様から注意しておくよ。」

「良いの?喧嘩にならない?」

「大丈夫、任せて任せて。」

そう言った彼は笑顔を取り戻し、私の肩をポフンと叩いた

でもその表情は普段の作り笑顔、無理をしているのが一目で分かる

有難い気持ちが半分と、申し訳無い気持ちが残りの半分

風魔君関連の問題を解決出来るのは恐らく佐助君のみ、だからここは彼を頼るしかない

解決したらお礼とお詫びとして、何か奢ってあげなくちゃ

「佐助君がどうしてオカンって呼ばれるのか、分かる気がする。」

「えー…分からなくて良いのに。」

お互いに買い物を済ませて外に出ると、駐輪場に預けていた私の隣にあるママチャリに彼が跨った

意外だと驚きつつも主婦のような姿が何故か彼は似合い、可愛いね、と茶化したくなる

きちんとレシートを受け取っていたり、エコバッグでのポイントを貯めたりしているのもやっぱり可愛い

周りからオカンと呼ばれるだけにしっかり者さん、機会があれば節約方法を伝授して頂きたい

「じゃ、俺様これから風魔の家に行くから。気を付けて帰りなよ?」

「い、今から?」

「元々アイツの家で飯を食う約束をしていたから、なまえちゃんの問題はそのついで。心配しなくても大丈夫だよ。」

先に去ろうとした彼は爆弾発言を投下し、脳裏に彼と風魔君が必要以上に仲睦まじく食事をする光景が出来上がった

親しいのは学校内のみ、そう思っていたのに違ったようだ

二年生の中でだと一位二位を争うイケメン二人に何故か彼女が居ない理由って、もしかして…

って、今考えるべきはそういう事じゃあなくて、風魔君の一件についてだ

ついでとして彼が私を助けてくれる、それは勿論有難い

不安なのは私が彼に愚痴ったと風魔君が誤解し、更に機嫌を損ねてしまう事

風魔君と付き合いの長い彼なら多分、多分大丈夫…と、信じてみようか

彼なら上手に風魔君を説得して、明日には問題が解決していると期待も出来る

私一人では解決出来ないし、ここは素直に彼に頼ろう

「…お願いね。」

「勿論。それじゃあまた明日、学校でね。」

「ん、ばいばい。」

明日、私が風魔君に怒られるか、怒られないのかは全て彼にかかっていると言っても過言ではない

だからずっとその場に立ちつくしたまま、小さくなる彼の背を見つめて健闘を祈った


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あきゅろす。
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