里親を申し出る
「…目的を、正直に吐け。」

「………保護して欲しい。」

出来れば出合う事無く生涯を終えたかったのに、運悪く俺は宇宙人に遭遇した

しかも一般的な宇宙人ではなくハムスタータイプ、更に文明が発達しているだけあって物騒な武器を一つ所持している

その問題となる水鉄砲を今は俺が持っていて、クローゼットの隅で膝を抱えている宇宙人の額へと向けている

先程とは形勢逆転、何か怪しい動きを見せるのなら躊躇せず撃ってやる

一応扉を開けろと五月蠅いコイツの頼みを聞くまでに船内を調べ、何かまだ物騒な物は無いかと確かめた

そして見つけたのは食料と着替えのみ

恐らく他に武器となる物は無いと判断した上で俺はコイツへの尋問を試みた

自分の国が滅ぼされ必死の思いで逃げ出した、だから保護して欲しい

相手の答えはそれ一つだけ、それを俺は信じ切れず何度も同じやりとりの繰り返し

「此処に来たのも保護を求めての事だし…今更国へ帰ったとしてももう誰も居ないもん。」

「…居ない?」

「言ったでしょう?猫軍に滅ぼされた、つまり私達種族は私一人を除いて全滅したの。」

「………。」

全滅、そう言い終えると声を殺して泣き始めてしまったので俺が悪い事をしているように思わされてしまう

助けを求めて国を飛び出したとは言え、どうして地球なんだ

ハムスターや猫が居るなら他に人間ではない動物の居る場所へ行けば良かったじゃないか

例えばチンチラやモルモット…あるのかは知らないが

「保護する気は無い。」

「…………わかった。」

はっきりと言えば渋々でも承諾してくれたらしく、フラリと立ち上がるとクローゼットの扉の前に立つ俺を横切りトボトボと歩きだした

耳は下へ向いて短い尻尾も完全に垂れさがっている姿を見ると本当に俺は悪く無いのに罪悪感を抱いてしまうから不思議だ

しかしこれが相手の狙いかもしれないので油断も出来ずトボトボと歩くその背に銃口は向けたまま

たまにチゥ、とネズミらしい小さな鳴き声やズッと鼻を啜る音に胸が痛むがそれは必死に気付かないふりをするしかない

「今から母国に帰って…猫に食べられて来る。」

「…俺に…関係無い。」

「そうだね。私が連中にボールとして遊ばれても、散々お腹に爪を立てられても、頭からガブリと食べられても…なぁんにも関係無いよね。」

「………。」

そんな惨い事をされるのかと思いつつ、引き止めた方が良いのでは?と新たな考えが巡り始めた

保護するだけなら簡単じゃあないだろうか、ペットフードは高くも無いしコイツ一人此処で住むくらいなら場所を取らない

何よりこのまま去られては非常に後味が悪い、夢にまで見たらどうしてくれる

そう迷い始めた俺の耳にまたチゥ、と小さな鳴き声が耳に入った

それが完全な決め手となり、自分が折れるしかないと諦めた

「………なまえ。」

「………。」

「…仕方が無いから、保護してやる。」

こう言う他に無い、俺に何も関係無いにしても関わられてしまった以上は仕方が無い

寝場所は段ボールと布団代わりのティッシュで、餌皿は子供用のお椀を買えば良い

自宅からの外出は一切禁止させ俺がでかけている間は家賃代わりに働かせよう

皿洗いや部屋の掃除くらいは出来るだろうし、コイツだって何もしないまま保護してもらおうだなんて生意気な事は思うまい

「…っありがと…。」

ようやく振り向いた宇宙人が泣きじゃくりながら礼を述べ、俺の元へ駆けて来た次にはズボンで顔を拭いやがった

ここでの生活を指示する前にコイツにはまず躾が必要だ

(助かった…っ!!)
(面倒な事になった。)


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