もしも明智先生から眼鏡をもらったら
「お市先輩っ!!今日もお美しいですね!!」

一度はやめようかと思ったけれど私は追求心に負け眼鏡をかけたまま校内を駆け続け、ついに次の被験者を見つけた

それは三年のお市先輩、今日も儚げな表情がお美しい

先輩を見つけたのは女子トイレ、丁度リップクリームを塗りなおしている途中だったので得した気分だ

女性が鏡を見つめてリップを塗る姿は私の中でセクシーな姿ランク5位には入っている

「あらなまえちゃん…今日も元気ね。」

(今日もベッタリと背後に風魔君を憑けて…彼の場合、生きた悪霊ね。)

「同意します。」

「…何を?」

いえ、と誤魔化した私は一度出入り口へと振り向き、風魔君の姿が無い事を確認した

どう見ても彼は廊下に居ない、此処は女子トイレなのだから同じ空間に居るってのも有り得ない

けれど先輩は既に彼の気配を察知済み、私にも霊感があればもっと彼の気配に敏感になれるのだろうか

仮にも自分の彼氏を悪霊呼ばわりされてしまっては良い気なんてしないがすぐさま同意してしまった以上何も言えないし、心の中を覗いていると知られてはならない

生きた悪霊かぁ…良かったね風魔君、新しい名称が頂けたよ

「それで、どうして此処に?」

「前々から一つ御聞きしたかったのですが、先輩は怒りっぽい浅井先輩をどう思われますか?照れ隠しだとは分かっておりますが浅井先輩のあの酷い物の言い様、腹が立ちません?」

「腹が立つなんて…長政様が市を好いてくれているのは分かっているもの、有り得ないわ。」

(そもそも長政様が怒るのも全て市の所為、市が死にさえすれば長政様は喜んで下さるかしら…。)

「………。」

(でも独りで寂しく逝くのは嫌、最期は長政様と…そうだわ、二人で仲良く手を繋ぎ根の国を目指すのも良いかも知れない。)

(愛する人と同じ時間、同じ場所で仲良く最期を迎えられる…これだけ幸せな事があるかしら。)

「やだよー!!先輩死んじゃやだよー!!」

次々に脳内へ届くのは恐ろしい程歪んだ先輩の心情、まさかこんなにも先輩が恐ろしい思考の持ち主だなんて知りもしなかった

これが今流行りのヤンデレ?

ツンデレだと噂されている私にヤンデレの心情なんて理解不可能だ

二人が同時に消えちゃうなんて絶対に嫌だから私は子供のようにワンワンと泣き、先輩が少しでも考えを改めてくれるようにと必死に両手で腰へ抱き付いた(良い香りがする)

そんな私の頭を先輩は優しく撫ぜ続けて、次にはお腹へ顔を埋めていた私の顎を持つと上へやり視線を絡めてくれた

「…市ね、その眼鏡が光秀様の発明品だって…知っているの。」

「………騙したんですか。」

「勝手に心の中を覗こうとするなまえちゃんが悪いのよ。」

そう言われると返す言葉は無く、私は眼鏡を外して胸ポケットへとかけた

流石は織田家、プライバシーは一切明かす事無く心の中にまで頑丈な鍵がかけられている

覗き込もうとした私が悪いのは明らか、私を騙した先輩へ怒るのはお門違いだ

すっかり自分の比を認めた私はショボンとへこんでしまい、私のへこみ具合を先輩はクスクスと笑った

騙されてもそんなに可愛い笑顔を見せられちゃあ憎めないなぁ…美人って得だ

「先輩、ごめんなさい。お詫びに浅井先輩が先輩をどれだけ愛してるのかを確認して参ります。」

「…お願い出来る?」

「だって、元々そのつもりなんでしょう?」

ええ、と素敵な笑顔を浮かべてそう言った先輩へ私が敵う筈も無く、完敗を悔しく思いながら私は女子トイレを駆け出た

悔しいが仕方の無い事、いっそ開き直って恋のキューピッドにでもなろうじゃないか

普段からあれだけお市先輩へ酷い言葉を向ける浅井先輩の心の中を隅々まで知り尽くし、その結果をまとめたレポートをお市先輩へ提出しよう

その御褒美として一体くらい藁人形を譲ってくれたら良いなぁ…魔除けの御札でも可

(話の趣旨が変わって来ちゃったよ。)


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あきゅろす。
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