もしも小太郎がプリクラを気に入ったら
困った事に、風魔君がプリクラをお気に召したようだ

初めてプリクラを撮ってから1ヶ月経過した今、彼の手元には大量のプリクラがある

週4のペースで放課後はゲーセンへ立ち寄り必ず3回は撮影、飽きないのかと尋ねても首を左右に振られるだけ

その内飽きるだろうとは思うけれど1枚1枚慎重に鑑賞する彼はとても幸せそうで、今のところ飽きる気配は無し

名前すら記されてい無かった筈の彼の下敷きにはベタベタとプリクラがあり、アルミペンケースを開けばそこにもまたプリクラが大量に張られている

佐助君の話だと学生証にも張っているらしく、新しいプリクラが増える度彼に自慢するそうだ(無言で)

「風魔君、女子高生みたい。」

「………。」

「睨んだって恐いないからね。何ならプリクラ帳でもプレゼントしてあげようか?」

「…プリクラ帳?」

授業を全く聞こうともしない彼に話かけるとジトーッとした視線を向けられ、私はクスクスと笑った

プリクラ帳を知らないようなので引き出しから小さくも分厚いファンシーなノートを一冊取り出し、それがプリクラ帳だとは説明せずに手渡した

ページを捲れば中学からのプリクラが沢山とあり、どれも日付や一言コメントをカラフルに沢山のペンで記している

だから説明は不要、彼なら一目でこれがプリクラ帳だと分かるだろう

今より幼い姿の自分を形に残したプリクラを見られるのは少々恥ずかしいが、幼稚園から中学校までの私の成長を残したアルバムを全て自宅から奪取している彼に恥じらいを覚えるのは今更だ

「…これ、なまえだ。」

「うん。あ、あまり見ないでね?やっぱり、恥ずかしいから。」

「…これも、なまえ…。」

「………。」

ピト、ピト、と彼は私を見つける度にプリクラを指差し、頬を緩めて嬉しそうに此方へ振り向く

不覚にも可愛いと思ってしまった自分を叱るのは後にしよう、それより今は早く彼からプリクラ帳を奪還しなくてはならない

大して恥ずかしく無いと思っていたのに彼があまりにもじっくりと鑑賞するものだから徐々に恥ずかしくなり、もう充分だろうと判断した私は奪い返そうと腕を伸ばした

しかし彼はそれを持つ両手を遠ざけ、邪魔するなとでも言うように私を睨む

ちょっと待とうよ風魔君、今は授業中なんだから私のプリクラ帳を見つめるよりも教科書を見つめるべきだよ

「ねぇ風魔君、返してよ。」

「今、忙しい。」

「返してってば。」

「…あげるって言ったのは、なまえだ。」

だから返さない、と続けた彼は椅子を右90度回転させて私に背を向けて一人の世界に入るとプリクラ帳を鑑賞し始めた

そんな彼の行動に皆は驚き、竹中先生の掌の中でポキリとチョークが折れた

またこのバカップルは僕の授業を邪魔する気だ、そう思っているのが表情からして分かる

違うんです竹中先生、ガキ大将風魔小太郎が私からラジコン…違った、プリクラ帳を奪ったんです

皆の視線が痛くて堪らず彼の背をチョイチョイと引っ張っても彼はその体制を保ったまま鑑賞中、普段なら私が授業中にお菓子を食べているだけで怒るってのに自分は何をしても良いとでも思ってんだろうか(きっとそうだ)

「ねぇってば、聞こえないの?」

「…これ、誰。」

「………。」

ようやく振り向いてくれた彼はあるプリクラを指差したまま私を睨み、トントンと指先でプリクラに映る人物の顔を叩いた

映っているのは中学3年生の私、それと同じクラスメートであった1人の男子生徒

今では名前も覚えていないくらい相手との関わりは少なく、プリクラを撮ったのだって偶然ゲーセンの前で遭遇したから

卒業間近だったので相手から『記念に1枚撮ろうよ。』と誘われ、なんとなくまぁ良いかと承諾したのだ

それが今になって仇となるとは予想外、元彼で無いとしても異性とのプリクラは彼を怒らせるネタとなっている

「…ええ、と…誰だったかな、あのね、あのね、違う。違うの。」

「…違うって?」

「そ、卒業前に、ね?偶然ゲーセンの前で会って、誘われたから記念に1枚くらい良いかなーって、それだけ。別に好きだったとか、そういうのは全く無し。ほんとに。」

睨み続ける彼を前に私は頬に冷や汗を垂らしながら事実を並べ、周りからの視線を気にせず彼の誤解と解こうと必死だ

皆は痴話喧嘩が始まったと小さく囁いては此方を見てクスクスと笑い、私がどれだけ恐怖に襲われているのかを気付いていない

私は悪く無い、強いて言うなら記念に撮影しようと誘った名も無き少年が悪い

記憶が正しければ3年間同じクラスで、彼はサッカー部…いや、野球部?

会話なんて思い出せる程していないし、最初で最後のプリクラ以外彼の記憶が無い

そのモブが私を苦しめようとは…奇跡的に再会する事があれば何らかの形でお詫びをして頂きたい

「絶対?」

「信じてくれないならもう良いもん、風魔君なんて知らない。」

「…分かった。」

「ちょ。」

疑い深い彼にプイと顔を背けば溜息交じりの返事がもらえて、彼は椅子と体制を元通りにした

これで私の身の潔白が証明出来たのだと安心したのも束の間、次にはビリッとその問題のプリクラを剥がしてしまった

大切とは思っていないので別に剥がされようが捨てられようが構わない、けれど一言言って欲しかった

思いがけない彼の行動に私は唖然としてしまい、咄嗟に伸ばした腕は何も掴んでいない

「…恐いんですけど。」

「………。」

次に彼は無言でコンパスの針の先を少年Aの顔に刺し続け、次第に相手の顔がボコボコになっていく

あまりにも恐ろしい光景に私は頬を引き攣らせ、いつ自分の顔に針が刺されてしまうのかと脅えている

彼が独占欲の塊だとは知っているし、その行動が嫉妬からだとも知っている

でも流石に恐い、恐過ぎて泣いてしまいそうだ

「俺とのプリクラ、は…無いのに…。」

「ん?」

「コイツとのは、張っていた。」

彼の怒りの原因はまだ他にもあり、私のプリクラ帳に自分とのが1枚も張られていないのが御不満なご様子

そう言われてもプリクラはいつも彼が出来上がった途端鞄に仕舞い、私は1枚も所持出来ずにいる

頂戴と言ってもくれない彼が悪いわけであって、無い物を張っていないと怒る彼の思考を疑いたくもなる

普通は二人で撮った場合半分こするのに彼はいつも独占、自分が悪いとは気付けないのだろうか

「そう言うなら1枚くらい頂戴よ。無いのに張れるわけ無いじゃん。」

「………とりあえず、これは没収。」

「………。」

遠回しに風魔君が悪いんだよ、と責めると彼はようやく自分の咎に気付いた

でも謝罪はせずに一度舌打ちを決めると当然のように私のプリクラ帳を鞄へと仕舞って、誤魔化す為に私の頭を撫ぜる

何がとりあえず、なんだろう

結局は自分がそれを欲しいだけで、私にそれを没収される程の罪は無い

アルバムに続いてプリクラ帳まで…このみょうじなまえマニア検定1級所持者め

「…今日、の…放課後。」

「はいはい。分かりましたよ。何枚でも撮ってあげる。で、後でプリクラ帳はきちんと返してね?」

「少しやるから、俺とのプリクラ帳を作れ。」

「………。」

私のお願いを無視した彼は偉そうな態度で命令を下し、再び机へ置いたままだった沢山のプリクラを鑑賞し始めた

隣で私は呆然としたまま彼を見続け、そんなのは恥ずかしいから嫌だと思いながらもどんなノートやシールを買い、どのように飾ろうかと悩んでしまっている

その中に1枚でも2人で笑いあっているプリクラがあれば良いなぁと願っている自分は心底彼に惚れているらしく、返事をせずに机へ突っ伏して緩みきった頬を隠した

『…なまえ?』
『暫くほっといて!!』


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