上司と部下の通信方法
梅雨真っ盛りと言えど珍しく快晴と今日この頃
授業中にポケットの中で携帯が振動して先生に気付かれないように机の下で二つ折りとされたそれを開けばメールを受信している事が分かった
それも送信者の名前は『破壊神』…言うまでもなく松永先生である
先生が授業中にメールを送って来るなんて珍しい
普段は私から登下校の最中に見つけた妙な顔をした猫の写真を送るくらい
先生から来る写真と言えば現状を留めていない何かが炎上しているその光景だ
さて、どうして先生は私にメールを送って来たんだろうか
用件はメールを見ればすぐに分かるだろうが恐ろしくて開く事は出来ない
まさか毎晩先生に嫌がらせで無言FAXを送っているのがばれた?
そんな馬鹿な、きちんと非通知設定にしている筈だ
ならば可能性が高いのは一つ、私と風魔君の事についてだろう

「なまえ、誰からだ。」

「…へ、変なメルマガ…。」

隣から私をギロリと睨むのは皆が私の彼氏だと認識している風魔君
素直に松永先生からのメールだなんて言えない
異性との連絡は禁止だと指示が下っているのだから
先生のアドレスは『破壊神』との名前で登録しているからディスプレを見せても問題は無く彼は私の腕から携帯を奪うとメールを開こうともせず削除してしまった
まだ本文を見ていないのに…と思うがこれで良かったのかも知れない
もしも後で先生に「メールを送ったのだが。」と言われても「間違えて削除しちゃった★」と答えれば良いだけだ

「………。」

が、どういう事か
風魔君から携帯を返された途端また受信を知らせてそれが振動した
送信者は先程と同じく『破壊神』と表示されている
まさかの連続送信、ただの嫌がらせだろうか

いや、違う

そう断言出来る理由は以前と同じく隣校舎の屋上に怪しい影を一つ見つけたから
あの見事なチョンマゲは松永先生であり視線は確実に私へと向けられている
どうして誰もあれだけ堂々としている彼に気付く事が出来ないんだろう
私も出来る事なら気付きたくは無かった
風魔君に「ねぇねぇ、松永先生が居るよ。」とでも言ってみようか
…やめておこう、二人がどういう関係かは知らないがあまり良い交友関係を続けているとは思えない

『・− −・・− −−−・− ・・・− ・・ −・−・・ −・ −−− 』

隣の悪魔に気付かれぬよう細心の注意を払い開いたメールには符合が続けられている
これは暗号、恐らく私以外の誰かが見ても内容を知る事が出来ないようにだ
その証拠にメールを覗き込んだ風魔君すら意味が理解出来ずに首を傾げて再び削除してくれた
しかし問題は無い、符号はきちんと脳内で覚えているし更には解読だってとっくに済ませている
今時モールス信号なんて先生も余程暇なのだろう
解読するならば「い ま す く ゛ き た れ 」となり更に読みやすくするならば「今すぐ来たれ」
早い話が招集命令、何度も私を裏切った存在となれど上官の命令に背く事は出来ない

「………。」

風魔君の監視もあり返事を送信出来ず机の下に落とした消しゴムを拾いながら先生に親指を立てれば向こうでも先生がいつかのあの爽やかな笑みを浮かべて親指を立ててくれた
そこでタイミング良くチャイムが鳴り再び向こうを見た時には先生は居らずきっと既に自分の部屋に向かっているのだと勝手に解釈をさせて頂く
今すぐとは言葉通り今すぐ、返事をしたからには行かなくては
何を言われて何を聞かれても常に平常心を保ち弱点を見抜かれないよう気を付けようか

「なまえ、行くぞ。」

その前に屋上で昼食をしようとしている風魔君をどう説得するかが問題だ
既に彼の片手にはお弁当箱などが入っている鞄が一つ、もう一方の腕で私の肩を掴んでいる
相手の機嫌を損ねる事無く説得…いや、どうして私がいつまでも彼の機嫌を窺っていなきゃならないんだ
身を守る為に彼との交際を認めたとは言え私には大事な作戦がある
そう、彼に私を好きになった事をとことん後悔させる事だ
いつまでもビクビクしている必要なんて無い、強気でガンガン向き合おう!!

「今日は友達とお昼を一緒にするから風魔君とは無理なの。」

「馬鹿を言うな。」

「はぁ?何それ?彼女である私に対してそんな事言うの?」

「………。」

口籠った彼を見て心の中だけでガッツポーズを取った
相変わらず膝は震えているが今の台詞は良い感じ、彼を前に強気で居られるのだから
この調子を忘れる事なく今後は常に強気で接してやるんだから

「…駄目だ。」

「駄目って何?私にだって付き合いがあるんだし、それを風魔君がどうこう言う権利なんて無いと思うけど?例え彼氏であったとしても過度な束縛は最悪。」

ごめんなさいごめんなさい
このような口調で私のような者が貴方様に意見などして本当に申し訳ありません
大変失礼極り無い事だとは重々承知しておりますのでどうか今晩枕元に立つ、なんて事は無いようお願い致します

「誰とだ。」

「風魔君に関係無いじゃん。そんな事まで知りたがるなんて有り得ない。」

本当に申し訳ありません
これは決して本心では御座いませぬのでどうかそう御立腹なさらないで下さい
今の私は上官からの御呼び出しを受けているのです
それを済ませたならば即刻帰還致しますのでお許し下さい
最悪殉職、なんて事になれば私の骨を拾ってくれると大変有難いです

「…好きにしろ。」

うっし、もしかして彼に勝てたのはこれが初めてではないだろうか
初勝利、これを今すぐ先生に伝え…ようか、どうしようか
まだ先生が私を何故呼び出したのかの理由も分からないし上官と言えど彼もまた私にとって立派な敵である
私と松永先生の関係って何だろう

「じゃあねー。」

彼に掌を振りながら満面の笑みで浮かべお弁当を片手に私はユラリユラリと先生の部屋へと足を向けた
ガクガクと膝が笑っているのは言うまでもない


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