恋は人を変える
風魔君と自分が付き合っている事を認めたのは決して私が彼に惚れているからじゃあない
自分の貞操を守る為であり彼女の立場を利用して散々彼を困らせてやろうという企みがある
デートだって数分遅れるようなものなら拗ねてやるし付き合い始めた一ケ月記念日、二カ月記念日と毎月プレゼントを要求する気は満々
付き合って半年記念となれば指輪、豪勢にダブルハートリングを要求する
そして彼が本当にそれを買って来たならば「えー、トリプルが良かったのにぃー。」と駄々をこねてやるんだ
とことん嫌な女を演じて、彼自ら別れを切り出させる
彼にとって私がどれだけ嫌な女に思えようが後々誰かに愚痴られる心配も無いだろう
今日からは何の遠慮も無しに彼へきつい態度で接する!!私に惚れた事を後悔させてやる!!

「なまえ、おはよ。」

「……おはよう。」

そんな私の企みを知らない彼は今朝も玄関前に立っていていくらか機嫌が良い
やはり私の予想通りで付き合う事を認めたとしてもそう状況は変わらない
今日だって登校を共にする為のお迎えがあるし、きっと帰りも家まで送ってくれる
学校内に居る間も…普段と変わらないであって欲しい

「…こっちが、なまえの。」

「………何、これ。」

「ピッチ。」

そりゃ見れば分かるけどね
どうしてこれを突然私に手渡すのかが疑問なんだってば
新品であろうそれは小さくパールピンクと可愛いしデザイン的にも可愛い…でも、何で?

「定額で…話し、放題。」

つまりこれで今後は私と沢山喋ろうという魂胆か
初めての着信の時でさえまともに喋らなかったくせに、いつも無言電話のくせに
パールピンクを持つ私とは対象に彼の胸ポケットからはパールブラックと色違いのピッチが見える
付き合う事を認めた途端これか…だから昨日は急いで帰宅したのか

「…定額でも、機種代とかお金はかかるじゃん。」

「良い、俺が出す。」

「え、でもそれは申し訳な…あ、うん、そう。お願いね!!」

忘れてた、私は今日から彼にとって嫌な女になるんだった
私が申し訳ないだなんて思う必要は一切無い
勝手に彼が買って来て勝手に私へくれた、だから当然渡された私が料金を支払う必要だって無い
彼が好き勝手するように私だって好き勝手してやる

「…着信?」

「なまえ、早く出て。」

「………。」

ピリリ、と初期設定の音が鳴りディスプレイには「風魔小太郎」の文字と番号
目の前に居た筈の彼も道路の脇へと移動していて自分のピッチを耳にあてている
私と彼の距離はおよそ3メートル…電話なんてする必要あるのか、これならまだ糸電話の方がましだ

「……もしもし。」

「もしもし。」

「………なまえ、です。」

「俺だ。」

俺俺詐欺かよ、なんて突っ込みを入れる事なくプツリと電話を切った
恋人専用のピッチを買った、それが嬉しいのは分かる
初電話が無事に成功した、それも嬉しいのは分かってあげる
だからってそうも嬉しそうにしないでよ、調子が狂うでしょ

「今後は、こっちだからな。」

「う、うん。分かったよ。」

私からかける気は無い、彼からの着信があっても出てやるもんか
出なくて怒られたって平気、お風呂だったり遊んでいたりと沢山と言い訳はある
それでも怒るなら「相手を束縛するなんて最低。」だの「恋人のプライベートまで邪魔する気?」だの堂々と言ってやる
今後はとことん私が彼に嫌な思いをさせる
だから今彼がさも当然のように私の手を繋いでいるのは大目に見てあげる
私ってなんて優しいだろう
隣を歩く彼が着信を5分以内に出ない場合はペナルティーだとか言ったのは空耳とする

「ぎゃ!?」

「…なまえ?」

拷問と思える彼と手を繋いでの登校を済ませ教室に入った途端私の声から奇声が上がった
席は昨日帰る時と同じで彼のとくっついている、これはもう何も思わない事とした
問題は黒板だ、どうして黒板の真ん中に大きく私と彼の名前が縦に並べて書かれているの
相合傘という余計なサービス付きで!!

「だ、誰がこんな事したの!!」

やめてよ!!と叫んで必死に黒板消しを探してはみるが一向に見つからない
此の際ハンカチで消そうか…いや、風魔君のジャージを使って消すのも良い
クラス全員を見渡してもニヤニヤしているし、佐助君は目が合った途端全力で首を反らした
これじゃあまるで私達が公認のバカップルみたいじゃないの、冗談でもやめてよ
黒板消しが無いのだっておかしい、だっていつもは必ず2つあるもん

「なまえ、なまえ。」

「なに!?今忙しいの!!」

「…俺が、書いた。」

「は!?」

口をあんぐりと開けたまま後ろを振り向くと小さく挙手をしている彼が立っている
まさかの自首、だけどこんな事をしたその意図は何だ
今朝からいつも以上に思考の飛んでいる彼は誰だ、誰か別人じゃないのか

「な、何でこんな事したの!?」

「恋人、宣言…。」

当然だろう、と彼があまりにも冷静に言うから私に続く言葉は無い
彼なりに皆へ自分達が付き合っている事をアピールしようとした…の?
でもいつ、昨日私の家を出てピッチを買ってその後?

「これで、邪魔する奴は居ない。」

そう言う彼の前に立つ私が邪魔だけではなく破局へ導こうとしていると彼は知らない

(ぜ、絶対に後悔させてやる…っ!!)
(順調だ。)


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