自覚に欠けた行動
佐助君と校門前で別れて久しぶりに一人で帰路を歩む
いつも必ず隣に居た筈の風魔君が居ない、たったそれだけの事なのに私は解放感に満たされている
まさかここで私が寂しいだの、悲しいだのと思うとでも?そんなわけがない
私はようやく彼に自分がストーカーであると告げる事が出来た、勝利をこの手に掴む事が出来たのだ
きっと彼は今頃自宅で今までの自分の行いに反省して、明日には私へ土下座レベルの謝罪をするだろう
その光景を想像するだけで頬が緩む、うひ、その時はそりゃもう偉そうに彼を見下ろしてやろうじゃないか
それからは一切迷惑な行為をやめさせて以前と同じのクラスメートに戻る
まぁ、多少なりの会話くらいはしても良い、と思う
普段と何ら変わりない夕暮れでさえ絶景に見えるのは私の心がそれだけ澄んでいるからだ
今夜はお料理暴走曲を二番まで歌いながら豪勢な物を作って、優雅に食べよう

「たっだいまー…にぇ!?」

「…遅い。」

帰宅して玄関に鍵を差し込みドアノブを捻る、そしていつもなら言わない台詞を決めて私は腰を抜かした
私より遥か前に帰宅した筈の悪魔がどうしてここに!?勝手にスリッパを履かないでよ!!
あれだけ説明したのに…っ!!全く効果無し!?

「風魔君、あれだけ言ったじゃない!!不法侵入は止めてって!!」

「…鍵は、ある。」

「あったら駄目じゃん!!何であるの!?」

今日ばかりは私も彼に立ち向かう、それだけの勢いが今はあるから
なるべく御近所さんへ聞かれないよう扉を閉めた後叫べば私の声が自宅の中で響いた
怒っているのも分かっていないのか、彼が次に見せたのは鍵、でもそれに私は見覚えが無い
まさかこの男、教室を出たのは合鍵を作る為に…っ!?

「玄関から入れば、問題無いんだろう?」

「家主の知らない間に鍵を作るのはアウト!!」

違法!!とまで叫んでみたのに、彼は「細かいな」と呟いてその鍵を再びポケットへと仕舞った
確かに窓や私の知らない何処から入られる事に比べればまだ玄関から入られた方がマシだ
でも合鍵を作られては困る、それでは今までと全く変わり無い、いつだって出入りが自由

「もう!!やめてよ!!私風魔君の事好きじゃないんだよ!?!」

「なまえ、照れ隠しもいい加減にしろ。」

「だから違うってば!!照れてないの!!怒っているの!!」

多分こうして情けなくも喚いている私を彼は何事かとでも思っているんだろう
癇癪持ちだと思われたって良い、必ず今日は彼を我が家から追い出す

「…なまえ。」

「な、に。」

ふいに、近付いた彼が私の目元を指の腹で拭った
相変わらず力の加減を知らないから少しだけ痛みを感じる
けれど抗議をするよりも気になるのは彼の声が少しだけ悲しみを含んでいるような気がした事

「…どうして、泣くんだ。」

「………。」

言われて気付いた、自分が泣いている事に
自分でもよく分かんない、悔しい、悲しい、腹正しい…様々な感情がグチャグチャになっただけ
確かな事は原因が彼である事、でもそれを気付かない彼は戸惑っているし、必死に私の涙を拭ってくれる
普段からそうやってただ優しいだけならどれだけ良い事だろう、飴と鞭とはまさにこの事だ

「…もしかして。」

「どうしたの?」

ピタリ、と彼が動きを止めて私の前で腕を組んだまま何も言わなくなった
こうも何か一人で考え込む彼は珍しく、私は彼が次に言葉を発すまでただ待つ

「…本当に、俺がストーカーと?」

「………。」

頭上から盥を落とされたような頭痛が走って、頭を抱えたまま私は屈んで小さく唸る
どこでどう彼が答えを出すまでに至ったのかは分からない、でもようやく気付いたその鈍さに完敗
私に続いて屈んだ彼は私の返事を待っていて、力無く一度頷けば小さく「馬鹿な」と声が届いた
馬鹿なって…それは私の台詞だ
彼がストーカーであるかどうかをアンケートを100人に求めればきっと108人くらいの人がYesと答えるだろう

「なまえを、好きなだけでストーカー?」

「…好き、までなら良いけど…こうして、家に入ったり、以前みたいに尾行したり…は。」

「………基準が、分からん。」

はぁ、と気の抜けた返事をして目の前で首を傾げている彼を見た
しかし良い傾向ではないだろうか、未だ全てを理解はしていないようだが自覚しつつあるんだ
基準が分からない、ならば私が教えて殆どの事を禁止にしてやれば良いだけの話

「…先ず、私達は付き合っていない、ただのクラスメート、ね?」

いつまでも廊下で二人屈んだままでは埒が明かず、移動したのはリビング
机を挟んで向き合うようにソファーへ座り、私は本題へと入った
最初からこうすれば良かったんだろうか、放課後行った特別授業は何だったんだ

「…待て、おかしい。」

「何が?」

「…付き合って、いない?」

そこからか、と心の中だけで舌打ちをして腕を組んだ
彼の中では何時から私達が付き合っているんだろう…ああ、松永先生の授業辺りだろうか
けれど一度も告白をされた事も、私からした事も無い
ただ彼が一方的に私へ「好き」と告げるようになり、偶然を装い遭遇しては擬似的デートをするようになっただけ

「だって、私から風魔君に好きだって言った事も無いし、付き合おうと言った事も無い。」

「…なまえは、照れ屋だから?」

「うん、まずその考えを捨てようね。私照れ屋でも何でもないから。」

「…結婚、は?」

「え、しないけど?」

「馬鹿を言うな。」

それは私の台詞だけれども言い返す事が出来ない、彼の機嫌がまた急降下した
バン、と机を叩くようにそこへ置かれたのは婚姻届で、私の震えた文字が窺える
これはコピーじゃないから再び破り捨てれば今後一切これを楯にする事は不可能
そんな事をしたら、ついに私は殺されてしまうんじゃないだろうか

「いつから、付き合うんだ。」

「………さぁ。」

本当にそれしか言えない、私から付き合おうとも言えないし、彼に言われたからと言って頷く事も出来ない
私が混乱しているように彼も混乱しているのだろう、背もたれに背を預けたまま足を組み直し頭を掻いた
一つだけ分かるのは、彼が今だ私を諦めきれていない事
早く何処かで自分に相応しい人を見つけてくれば良いのに
ストーカー行為、俺様、その部分を取り除けば彼は普通…には程遠いが悪い人ではない
だからこそ私だって嫌いにはなれないし、彼が更生したならば…今後の事を考えない事もない

「…風魔君は結婚相手が欲しいの?彼女が欲しいの?」

「なまえだけ、欲しい。」

「………何で、私なの。」

「なまえじゃなきゃ、駄目だ。」

台本でもあるのだろうか、こんなドラマや少女漫画よろしくな台詞をまさか自分に言われるなんて
困った、妙に心臓は早いし、頬は熱いし、これ以上何か言われては羞恥に耐えられず奇声をあげてしまう

「付き合うのは後々考えるとして、まずは風魔君のストーカー行為をどうにかしようよ。」

「…していない。」

「勝手に家の中に入ったり、写真撮ったり、やりたい放題してるでしょ。」

「好き、だから。」

「そう言い張り続けるなら、絶対に付き合わない。」

机の下では膝を震わせながら私は強気で彼に向き合う
自覚を持ち始めたと思えば否定で、自分を正当化するばかり
それでは私が良いように扱われ、気付けばゴールインしていました、なんて事になってしまう
結婚、出産、マイホーム?そんなずっと先の事よりもまず私は普通の高校生生活を送りたい

「…どうしたら?」

「……とりあえず…ここ数日で仕掛けた罠、全て片付けようか。」

ようやく指示を求めた彼に、私は庭を指差してそう言った


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