レスキュー110
「風魔君、これ何。」

「…泊まる、道具。」

「うん、でもさ…おかしくない?」

おかしいよ、と自問自答をしてみせたが彼は床に腰を下ろして胡坐を掻き首を傾げた
何が?とでも思っているのか、この男は
確かに目の前にあるのは彼のお泊り道具、らしい物だ
でもそれがどうして私のクローゼットの中から出てくるんだろう、それも丁寧にトランクへ詰められて
クローゼットを開ければ見慣れないトランクがある、となれば誰だって不審に中を確認するだろう
…するんじゃなかった、って言うか、いつから?

「何で風魔君のお泊り道具が私のクローゼットにあるの!!」

「置き場が、無かった。」

「いやいや、私の部屋に置かなくても良いじゃん!!」

「…客間か。」

「違う!!」

叫びと同時にトランクを思いきり顔面へ狙って投げたものの、ヒラリと交わされ歯痒さを覚える
クローゼットから取り出す際にも思ったけれど案外重たい
中身は全て圧縮袋へ詰められている、何があるんだ、何を考えているんだ

「あの…と、泊まるつもり?」

「…任されたからな。」

腕を組みながら自信満々に答えたこの男をどうすれば良いんだろう
任されたとは何か、その答えはわりと真新しい記憶の中で見つける事が出来た
両親は確かに新幹線が出るまで何度も彼に私の事を任せる、そう言っていた気もする
だからって…何で?!どうすれば泊まる、なんて結果を出せたの!?

「泊まる必要は無いと思うけど…。」

「何かあってからじゃ、遅い。」

「………何も無いよ。」

何かあるわけもない、それに私の住む地域は平和町という名の通りかなり平和だ
交番の前に張られる怪我人や事故の件数だって毎月0を誇るし、たまにある事件と言えば畑荒らしとその程度
…強いて言うならば、今まさに我が家へ犯罪者が堂々と居座っている

「そ、それにさ!!風魔君だって以前私に外泊禁止って、言ったでしょ!?」

「例外はある。」

「………。」

なんて都合の良い考えか、こんな例外が認められるわけがない
なんたって年頃の男女が保護者の目も無しに一晩、同じ屋根の下で過ごそうとしているんだから
このままでは拙い、今晩こそ私の身が危険だ
今すぐ警察を呼ぼうか、しかし携帯はリビング、電話も廊下…電話をするには彼を横切らなくては
べ、ベランダから…でも現代を生きる忍である彼に足で敵うなんて思えない
それに外は大雨で、遠くで雷の音だって聞こえる
兎に角先ずはこの部屋から逃げ出す事が優先だ、何か、何か良い方法は無いか

「わ、私お風呂に入って来るね!!」

「………分かった。」

素直に頷いてくれた、これは意外だ
でも驚いている場合じゃあない、今すぐこの部屋を飛び出して警察へ電話しよう
今まで見逃してきてあげたけどもう限界だ、寧ろ今まで通報しなかった事を感謝して欲しい
パジャマや下着は全て下にあるから、私は冷静を保ちながら彼に悟られないよう部屋を出る

「………よし。」

部屋を出て数歩進み、彼が追ってこないのを確認する
警察が来るまでの間、間抜けにもそこで一人大人しくしていれば良いんだ
雷の音が近付き始めた、うう、あまり得意じゃないのにな

「119…い、いや、110だ…。」

階段を駆け下りて電話の受話器を耳にあて、ボタンへと震えた指先を伸ばす
本当にこういう時っていつも覚えている筈の番号がすぐに出ない、落ち着かなきゃ
何て説明しよう、以前からストーカーに困っていて、それが自宅で寛いでいる?
それより佐助君に回収処理を頼もうか、でも…い、良いよ、警察呼んじゃえ!!

「11…「なまえ。」…ひっ!?」

最後に0を押そうとした所で、ポンと肩に手を置かれて悪魔の囁きが届いた
振り向けばやっぱりそこには悪魔が居て、訝しげに私を見ている
気付かれた?殺される?埋められる?白骨化しちゃう?

「…何処に?」

珍しく彼が疑問符を使った、でも尋ねておきながら受話器を奪って元に戻すのは何故?
折角警察へ通報出来ると思ったのに、これじゃあ出来ないし状況が悪化している

「答えろ。」

恐らく近所に落ちただろう雷の音を最後に、私の喉がゴキュッと鳴った


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あきゅろす。
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