彼女の知らない事実
G.Wが始まり、風魔となまえちゃんのゴタゴタに巻き込まれなくて済む
なんて思い一人のんびりとしていたのに、嵐は唐突にやって来た
実家のインターホンが鳴り客だと思い出てみればこれだ、目の前には風魔が立っている
私服を見るのは慣れているけれどここまで整えた姿は初めてで、何かあったのだとすぐに分かった

「…何?俺様忙しいんだけど…。」

「………。」

「…カメラ…?」

本当は暇で全く忙しく無い、でも早く帰ってもらうには嘘をつかなくてはならない
そんな俺の言葉を聞かず、風魔は無言でカメラを俺に手渡した
新型じゃないか、コイツがこんな買い物をするなんて意外
でも驚いている場合ではない、何か恐ろしい事を頼むつもりだ

「…明日、なまえと祭り。」

「へ、へぇ〜!!良かったじゃん!!連休も二人でデート!!羨ましいねぇ!!」

ヘラリと笑い元気良く答えて、心の中では必死になまえちゃんへ謝罪する
風魔はどこか嬉しそうに見えるし、実際には頬が緩んでいるのだから嬉しいんだろう
しかし彼女は違う、絶対に二人で祭りに行く事を嬉しいだなんて思わない
今頃明日の事を考えて一人胃を痛めて唸っている可能性が高い

「…撮影。」

「は?いやいや、無理だって!!俺様だって用事があるんだから!!」

用事一つ無いけれどそんな事は御免だ
二人のデートの様子を撮影?馬鹿じゃないのかコイツは

「撮影、しろ。」

「あ、はい、撮影ですね。」

凄まじい睨みを効かされ殺気を放たれては断れず、思わず低姿勢となってしまう
なんとなくだけど、初めてなまえちゃんの苦労が分かった気もする
撮影って…ついに俺まで盗撮をしなきゃならないのか、折角の休日を無駄にしてまで
手渡されたカメラを、今すぐ地面に叩きつけて壊したい衝動に駆られた

「で?俺様いつまでこうしてなきゃなんないの?」

当日は思った以上に人が多く、人ごみに紛れて二人を尾行しながら撮影するのは簡単
だからと言っていつまでもこんな事を続けるのは辛い、今すぐ帰りたい
彼女がトイレへと行き、風魔が一人になったのをチャンスとばかりに駆け寄った
出来るならもう満足して欲しい、彼女の家を出てから今までずっと撮影を続けたんだから

「ねぇ、聞いてる?」

「…待て。」

一向に返事をくれない風魔にもう一度声をかければ、片手を向けて制された
流石に中に入る事は出来ないけれどギリギリまで耳を向けて中の音を聞いているようだ
中からは水の流れる音だけで、まさかそんな音すら拾って喜んでいるのかと冷や汗が垂れる

「…窓?」

「は?」

「…窓を、開いている…?」

「な、何?え、ちょっと!?」

何なんだコイツは、窓?開いている?まったく意味が分からない
それも店内をすぐに飛び出して外へと駆けだしてしまった、それを追わなくてはならない俺の苦労を知れ
換気が悪くて窓を開いただけかも知れないじゃないか、何処へ向かうつもりだ
そもそも窓を開く音すら気付くのが凄い、数キロ先の蟻のクシャミすら気付くのだろうか

「………。」

「あー…ね。」

そんな有り得ない事を考えながら奴を追い辿り付いたのは従業員専用だと思う駐車場
そこは先程の女子トイレに面していて、すぐに小さな窓からヒョッコリと覗いた彼女の頭に頭痛を覚えた
逃げようとしている、確実に
俺達に気付く事なく辺りを見渡している彼女に今すぐ違う方向へ逃げろと叫びたい
それが出来ないのは、風魔から伝わる怒気が恐ろしいから

「あ、や、あのさ、きっと腹が空いているんだよ!!ほら、祭りに来てまだ一度も屋台に寄って無いだろ!?」

「…腹が減って…窓から?」

「か、彼女ってちょっと奇抜なとこあるだろ?!空腹に耐えきれないんだよ、きっと!!」

彼女に歩み寄ろうとした風魔の腕を引き、無茶苦茶な説を訴えた
こうでもしなきゃコイツは今すぐ彼女へ説教する筈で、それでは彼女が不憫過ぎる
始終俯いていて暗かったのは後から見ていたんだからよく知っている、逃げたい気持ちだって痛い程分かる
彼女の人格を疑われるような話しでもあるけれど、頼むから信じて欲しい

「…言えば良いのに。」

「だ、だよねぇ。いやでもさ、あの子遠慮がちなとこ、あるしね。」

「………知った風な口を利くな。」

理不尽!!と言う前に足を蹴られ、俺はただ涙目に蹴られた部分を摩る
その間に風魔は彼女へ歩み寄り、次には絶望感全開の彼女の表情が見えて酷く同情する
結局いつまで撮影を続けるのか分からず仕舞いじゃないか

「ほんと、いい加減にしてよ…。」

溜息を吐きながら再びカメラを手に取り撮影を開始するしかなかった


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あきゅろす。
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