躾の見直し
ガルル、とまるで犬が唸るような声が隣からして視線を下せばなまえが居るだけ
今の唸りは彼女からで、照れが最高潮に達しパニックになっているのが分かった
婚姻届だって破り捨ててしまった程、念のためにコピーをとっていて正解だ

「なまえ、風魔君に『ごめんなさい』は?」

「やだ。私悪くないもん。」

ずっと同じ事を繰り返しを続けているのは彼女と彼女の母親で、彼女は一向に俺へ謝罪しない
パニックになり仕方ないとは言え大事な婚姻届を破ったんだ
少しは反省しろ、そう思い机の下で少しだけ力を入れて足を踏んでやった

「ご、ごめんなさい。」

「………。」

こうしなきゃ謝れないのか、躾を見直す必要があるな
それでも一応は両親の手前、無言で頷いて許してやる事とする、この場では
本来ならば彼女と一緒に両親を自宅で迎えるつもりだった、でも先手を打った方が早いと思い駅へと足を向けた
顔すら知らないが、駅のホームで二人の顔を見てすぐに両親だと分かって声をかけ挨拶を済ませた
思ったよりも両親は俺達の事を寛大に受け止めてくれて、実際に祝福してくれている
残る問題は一つ、未だに反抗期の影がチラつく彼女だ

「学校じゃどうかね、二人で仲良くしているかい。」

「…一緒に登下校して、昼食も一緒、です。」

「もー、なまえったら何だかんだ言って風魔君にベタ惚なんだからぁ。」

彼女が俺にベタ惚れ?そこまで俺の事が好きだったのか
俺には一切それが分からないけれど流石は母親、彼女の事が丸わかりらしい
どうせなら彼女の事をもっとまともに躾けて欲しかった
正直母親の腹の中に頭のネジを何本か忘れて生まれたんだと思う

「今すぐ結婚は出来ない、それは分かっているね。せめてなまえが大学を卒業してからだ。」

「…分かりました。」

大学を卒業してから結婚か、随分と遠い道のりで少しだけ不満を感じる
当然それを表情に出すわけにもいかない、とりあえず認められただけでも感謝しなくては
最悪学生結婚と思っていたのに、それが許されないなら絶対に同じ大学へ進学させよう

「…なまえ?」

どうも彼女が不自然に大人しい、だから声をかければ酷く肩を震わせて俺を見上げた
でも次にはまたカモメサブレに齧りついて視線を反らす
両親が居るから叱る事が出来ない、分かっていてそうした態度をとっているなら考え物だな

「ごめんなさいね、この子緊張しているのよ。」

「いえ。」

母親がそう言うならばそうなのだろう、仕方なく足を踏むのは止めておく
彼女が緊張…珍しい事もあるんだな

「風魔君、今日は是非うちで夕飯を食べて行ってくれ。まだ沢山と聞きたい事もあるからね。」

「そうね、そうしましょう。」

「…有難う御座います。」

まだ会話が必要なのか、面倒でもやはり仕方ないのだろう
礼を言いながら頭を下げている途中、横目でチラリと見えた彼女が顔面蒼白となっていた

(夕食まで…っ!!)
(落ち着きが足りないな。)

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