ママとのお約束条項
帰りたいとまで言った私を彼は特に咎める事なく、私が提案した休憩にも断る事なんて無い
一緒に居て私が逃げないからか、どことなく私が優位に立っている気分でいられる
普段からそうだと良いのに、とは思うけれど結局は彼の言う事に私は従う以外無い
何処で休憩しようかと聞かないのは恐らく私が居るとこ、それ以外言わないのを分かっているから
だから彼の意見を聞く事なく訪れたのは普段から頻繁に使用するファーストフード店
彼は慣れていないのか、私の注文を真似した後会計は無理矢理自分が二人分払った(素早かった)

「美味しい?」

「……嫌いじゃない。」

「好きって言えば良いのに。」

「なまえが好き。」

んぐ、と妙な声を出してタイミング悪く喉へ流していたシェイクを咽てしまった
そういう意味で言ったわけじゃあないのに、そもそも場所を考えて欲しい
向き合って座る私達同様休日という事もあって店内は他にもお客さんが沢山
それでも誰一人彼の発言に気付かなかったのは五月蠅いBGMの御陰だ
些細な会話でも言葉を選んで慎重にならなくては
次にまた同じ事を言われては私の心臓がもたない

「…この後何処行こうかなぁ。正直あまり考えていないんだよね。」

「…俺の家。」

「………。」

「…大丈夫、誰も居ない。」

「大丈夫じゃないでしょ!!」

勢い任せに机の下で彼の足を軽く蹴れば拗ねたように唇を尖らせられた
そういう所は可愛いのに、発言があまりにも可愛くない
彼の家に行くなんて死刑執行も良い所、それに誰も居ないなんて恐ろし過ぎる
別に誰か居る時なら良いって意味でもないけれど、二人きり、それも彼の陣地に行くなんて無理だ
もう彼に意見を求めるのはやめよう、彼に与えるのは黙秘権のみだ
しかし本当に困った、何処に行けば良いのだろうか
カラオケ?ボーリング?ゲームセンター?…どれも彼が楽しめるような場所ではない

「…何で、なまえは俺の家に行くのを拒むんだ。」

おおっと、また疑問符無しの質問だ
拒むんだって言われてもなぁ、正直男の子の部屋に興味はあるけれどストーカーの部屋となれば別問題
自分に好意を寄せている相手の家に行くなんて出来るわけがない
今までそういう性的な事をされてはいないけれど一応彼だって男だし、いざとなれば私は力で敵わない
絶対に駄目だ、母さんとも約束をしている
しない、させない、作らせない!!

「そもそも、何で風魔君の家に行かなきゃならないの?」

「…なまえは、俺と居たくないのか。」

「え、あ、やー、そうじゃなくて。ほ、ほら、一緒に居るならこうしてでも問題無いでしょ?」

「……人が多い。」

それが私には好都合だという事は黙っておこうか
正直一緒に居たいとは思えないし、今だって出来るならばあまり長く共に時間を過ごす事なく帰りたいと願うばかり
彼は私と一緒に居たい、だからそうも自宅へ連れ込もうとするのだろう
案外寂しいのだろうか、家族構成について聞いた事はないけれど、私と同じで一人っ子の可能性が高い

「…一人で暮らすのは、危険じゃないか。」

「うーん…まぁ、たまに誰かさんが不法侵入するけど…それさえ無ければ問題無いよ。」

「…誰が。」

「……ふ、風魔君。」

「………鍵が簡単に開くなんて、物騒だ。」

あ、誤魔化した
危険と言われれば確かに危険だけど、その辺りは両親が御近所さんへお願いしている
皆良い人ばかりで私の様子を確かめに来てくれたり、御夕飯のおかずをわけてくれたりする
今まで別に何か問題が起きるような事は無かった、ただ、彼が私に目をつけるまでは
誰が?と聞いた彼は本当に自分だと思っていないのだろう、ギラリと瞳が光ったのが分かった
彼は心配してくれているのか、やっぱり優しい、でもどこか方向が違う
この一番物騒な人物はいったいどう処理したら良いのやら

「…なまえの所為で、俺は落ち着かない。」

「………はぁ。」

「だから、なまえは俺の側に居るべきだ。」

とんでもない発言をされながらも「今日の彼はよく喋る」なんて事を思えるのは次第に私が慣れているからだ
どうしてそんな発言を堂々と出来るのか
記憶力だって良いならばその度胸を生かして弁論大会に出るべき存在だ
…今度、こっそり推薦しちゃおうかな

「落ち着かないと言われてもなぁ、私にも自分の生活があるし…。」

「…何れ夫婦になるなら問題無い。」

また咽た、それもポテトが気管に入ってしまい先程より酷い咽方
身を乗り出した彼が背を摩ってくれるけれど、誰の所為かを考えて頂きたい
夫婦?誰と、誰が?問題無い?あり過ぎてどこから指摘して良いのかも分からない
既に彼の中で私達は恋人となっていたが、その先は夫婦だったのか
ようやく呼吸を整えた後、一応は背を摩ってくれた彼に謝罪をしてシェイクを喉に流した
どうやって断ろう、昨日友達だと言ったばかりなのに、理解していない?

「…私は、このまま風魔君とは友達で居たいなー。」

「…先に求婚したのはなまえ。」

「は?私が?無いよ、絶対無い!!」

「……昨日、年貢の納め時だって言った。」

「…………もう…。」

嫌、と小さく呟いて私は机に額をくっつけて涙を堪えた
言った、それはそう言ったけれどそういう意味ではない
確かにそういう意味だってあるけれどよくあの状況で私が求婚したと受け取る事が出来たものだ
これだけ拒み続けても全く効果が無い、彼のポジティブさに思わずExcellent!!と叫びたくなる

「子供は、5人。」

勘弁して下さい、そう小さく呟いた私の言葉は五月蠅いBGMによって掻き消された


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