友人兼通訳
どうしよう、と何度も同じ言葉を繰り返してはいるけれどその解決策なんて一向に見つかりはしない
悩みの種は今も鳴り続けている携帯、そしてその着信先として表示されている名前の人
思わず切ってしまったが、その後もこうして彼からの着信は続いている
出れば良いだけの話しかも知れないけれどまた同じ言葉を言われたらどうしようか、恐らくまた切ってしまう
彼は何を考えての上でこうして着信を続けているのだろう、声が聞きたいなんて、恥ずかし過ぎる
「…お。」
ずっと続いていた着信音が止まれば次にはメールの受信音
誰からだろう、そんな事を思いながらも大体の見当はついているし、やはりこれもビンゴだ
送信相手の名前は風魔小太郎で、ようやくメールで妥協してくれたのかと小さく胸を撫で下ろす
けれどメールを開けば「でんわでて」と簡潔な言葉だけだ
絵文字の無いメールとはどうしてこうも相手の怒りを告げてくれるのだろうか
彼が絵文字を使わない人だとしても変換すらされていないのだ、相当御立腹なのだろう
「…私は何も見なかった!!」
えい、と電源ボタンを強く押せば画面は数秒の間を置いて真っ暗となった
私は何も見ていない、見ていない、メール?何それ、受信していないんだけど?よし、それでOKだ
もう6時を過ぎているのだ、お腹も空いた、先程からずっと空腹を訴えている
今日はもう恐いから携帯の電源は落としたままで良いだろう、何かあればパソコンからだってメールは出来る
兎に角早く買い物へ行こう
自室へと足を向けて素早く制服から私服に着替え、財布を持って外へ出れば空は思ったよりも暗くなっていた
本当に予想外の事で時間を潰してしまったなぁ、なんて事を思いながら自転車を漕ぎ、向かったのは何時ものスーパー
両親が出張で居ない間は自分で全てをしなくてはならない、苦痛に思う事は無いけれどたまに寂しいとは思う
「お、なまえちゃんだー。奇遇だねー。」
「通訳さん!!」
「え?なに?」
「ううん、何でもないよ!!」
商品を選びながら店内を歩いてると、此方へ声をかけながら手を振ってくれたのは佐助君
つい思わず普段から思っている事を本人に向かって言ってしまった
笑って誤魔化せば彼もそう気にはせずヘラリと笑い返してくれたので一安心だ
同じく買い物途中だろう、私と同じ様にスーパーの黄色いカゴを持ちその中に色々と入れている
この時期にもち米と小豆…赤飯でも焚くのだろうか
そうだ、この機会に風魔君とのコミュニケーションはどうすれば良いのかアドバイスを貰うべきではないか
「なまえちゃん、風魔から何かメール来た?」
意外な事にその話題を口にしたのは彼で、それも何処か嬉しそうにニンマリとした笑みを浮かべている
本当に何か嬉しい事でもあったのだろう、普段の彼も笑顔だけれど今はまた違う、素直な笑顔だ
そんな時にこんな事を言っても良いのかと悩んだけれど、隣に並んで店内の中を歩きながら先程までの事を全て話せば彼の笑顔は次第に崩れてしまった
「佐助君との電話もそうなの?」
「いや、俺様まず電話した事無いし…メールも殆ど無い。」
ならば彼の奇行は発作的なものだと考えても良いのかも知れない
付き合いの長い彼でもその行動が理解出来ず、今では心底疲れる、そんな表情だ
不思議な人だとは思っていたがまさか此処まで不思議とは思いもしなかった
不思議と言うより…少し変わっている、そう言った方が正しい気がする
「今電源落としていてね…機嫌を損ねていないかなぁ。」
「うーん…俺様から注意しておくよ。」
「助かるけど、良いの?喧嘩にならない?」
「大丈夫だって。任せて。」
そう言った彼は一度私の肩をポフンと叩くと笑ってくれた
でもそれは普段の作った様な笑顔で、正直申し訳ないと思う
けれどその半面、本当に有難いとも思うし、此の状況を一番上手くまとめてくれそうなのは彼以外に見つからない
今度何か奢ってお詫びをするべきだろう、何が良いだろうか
「じゃあ俺様は風魔の家行くから。ちゃんと忠告しておくね。」
お互いに買い物を済ませて荷物を自転車のカゴに入れる
佐助君でもママチャリに乗るのか、意外だけれどこうして主婦の様に買い物をしている姿はどこか可愛いとも思える
きちんとレシートを受け取っていたし、家計簿でもつけているのかも知れない、だとしたら尚更可愛い
流石に本人へそれを言う事は無いけれど小さく笑いながら彼を見ていると唐突な言葉を向けられた
「い、今から?」
「元々今日はアイツの家で飯食う約束していたから。大丈夫だよ。」
そんな約束をしたり、一緒にご飯を食べたりする程仲が良いのか、学校だけだと思っていた
正直今から言うのは私がすぐに佐助君へ愚痴ってしまったと思われるのではないかと不安にもなる
でもその不安を分かってか、彼は優しく笑って「大丈夫」と連呼してくれた
大丈夫…うん、大丈夫、だろう、大丈夫な、筈
明日学校へ行き風魔君に会うのが少し恐いけれど佐助君ならきっとどうにかしてくれるだろう
「じゃあ、よろしくね。」
「了解。気を付けて帰るんだよ。」
「佐助君もね。」
クスクスと笑いながら彼は自転車に乗ればヒラヒラと片手で手を振ってくれたので私も振り返す
明日、私が風魔君に怒られるか、怒られないのかは全て彼にかかっていると言っても過言ではない
だからずっとその場に立ちつくしたまま小さくなる彼の背を見つめて健闘を祈った
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