批難すら出来ない
「…!?」

夕飯の支度途中にブルリと背中が震え、すぐに後ろを見たけど誰も居ない
何だ?何かこう、凄く嫌な予感がする
自分の家の中に誰か居るような…誰も居ないような…
まさか幽霊?いや、幽霊は恐いからオバケと言おうか
問題はそこじゃあない、誰か、誰かが居るような…どう、だろう
オバケは無い、だって今までそんな事は無かった
ならばもう答えは一つしかない、けれどそれはあってはならない、有り得ない

「…ふ、風魔君?」

適当に辺りを見渡しながら彼の名前を呼んでみる、前科のある彼ならば居てもおかしくはない
情けない自分の声が部屋に響いて、更に気味悪さまで感じた
ここで「はーい。」なんて呑気な返事がくれば私はきっと卒倒するだろう

「………何。」

「ひきゃあああああ!?!?!?」

ポンと肩を後ろから叩かれ、聞き覚えのある声が上から届いた
振り返る事なく机の下に隠れるようにして飛び込み柱を両手で強く握る
有り得ない、有り得ない、今のは幻聴、そして少し先で膝を曲げて此方を見ている彼の姿も…幻覚!!
呼んだのは私だけど、どうして居るのか、どうしてそう堂々としているのか
いったいいつから室内に居たのだろう、まさか早く帰宅して、ずっと居た!?

「な、な、何で!?」

「…呼んだ、から。」

「そうじゃ、なくて!!いつから居たの!!」

「…なまえと、一緒。」

一緒?一緒とはどういう事か
同じタイミングで家に入った?つまり、え?ずっと、居た?
ないない、それは有り得ない、そう自分に心の中で言い聞かせて無意味に首を左右に振る
だって彼は私が学校を出る時には先に帰宅していて、私は寄り道を沢山としている
その間彼を見てもいないし、気配も感じなかった(元々殆ど無いけど)
机の下が私の安全地帯で、腕を伸ばして私を引き摺り出そうとする彼から必死に逃げるしかない
防犯ブザーを鳴らそうにも鞄の中…玄関にある消火器を顔面に投げてやろうか

「…ひぃい!!」

ついに彼の長い腕が私を掴んだ、それも容赦なく引き摺りだされてしまった
腕を掴む力が強い、痛いけど恐い方が勝って何も言えず、ただ膝を震わせて脅えるだけ
片手は自由だから何か適当に投げられそうな物を探すけれど醤油にソースと後で面倒な物ばかりだ

「…ストーカーが、居るんだろう?」

「………は?」

妙な沈黙が続くのは彼が意味の分からない事を言ったから
ストーカーが居るんだろう?そりゃ居るよ、それっぽいのが今まさに目の前に
こうして堂々と自宅内も入っているし、腕を掴まれ捕獲すらされている
まさか自分以外に誰かそんな存在が居ると彼は受け取ったのだろうか、そんな馬鹿な

「…俺が、消す。」

誰を消すのだろう、ストーカーを消す?つまり自害すると?
ようやく自由を手にしたと思ったのに、状況が悪化した事により溜息が漏れる

「…い、居ないよ。そんなの!!居るわけないじゃーん!!」

「防犯ブザー、買ったのに?」

「…見ていたの?」

「…ずっと。」

ずっととは、ずっと、という意味で、他には無い
私の知らない間に、彼はずっと私の側に居て、ずっと私の事を観察していた
だから防犯ブザーの事だって知っているんだ
尾行されていた、その事実にブワリと全身で恐怖を感じて鳥肌が立った
でも沸々とお腹の奥から湧き上がるのは怒りで、どうしてそうも勝手な事ばかりされているのかとついに限界を達した

『そんな事をしている風魔君がストーカーなの!!』

そう叫ぼうと口を開いたのに、沸騰を知らせる間抜けなヤカンの笛が響いて私は項垂れた


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あきゅろす。
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