新たなトラウマ
松永先生の部屋から飛び出して風魔君を探しだすのは簡単だった
だって適当に歩いていればすぐに辺りを見渡している彼が居た、同時に心臓がキュウッと縮んだ気がする
此方へ歩み寄る彼を驚かせようと癇癪玉を並べたのに、それは呆気なく失敗
更に言えば彼の機嫌が最高潮に悪い、今だってそう
教室まで担がれ運ばれた、と思えばお弁当を強制的に食べさせられる
私の為に用意してくれたのだろう、美味しい…でもその最中彼は何度も舌打ちをする
戦おうと私なりに頑張ったのに、何が駄目だったのだろうか
あんな癇癪玉だけで立ち向かえる相手でもなった、かと言って先生のように危ない何かを使うのは無理
そもそも、どうして松永先生と居た事が分かったのだろう

「………。」

「………。」

ご飯が終われば5時間目の授業、相変わらず席は隣でくっつけたまま
どうしてそうも機嫌が悪いのだろう、何も言ってこないけれど不機嫌なのがよく分かる
放課後はまた追われるのだろうか、とりあえずは戦う事なく逃げて松永先生に報告に行かねば
うわ、また舌打ちしたよ、授業中なのにお構い無いだよ
その間私がずっとビクビクしていなきゃならないし、中々授業に集中出来やしない

「…わ、わ、また!!もー!!」

「みょうじさん、おしずかに。」

「なまえ!!どうして謙信様の授業を妨害するんだ!!血を見たいか!?」

「す、すみませんっ!!」

ふいに彼が私の腕を掴んだ、と思えば先日と同じように「風魔小太郎」と書かれてしまった
それに驚きの反応を示すのは当然の事だけど、今はタイミングが悪かった
何せ上杉先生の授業で、先生のお叱りよりも此方を鬼の形相で睨み叫んだかすがが恐ろしい
血を見たいかって…それ、女子高生の台詞じゃあないし、友人に対してそれは…うう、泣きたい
風魔君の舌打ちについての何のお咎め無し、どうして、どうして私ばかり
私がここまで理不尽な扱いを受けていると言うのに、その原因の本人は何もフォーロー無し
まさかこれこそが彼の狙い…?いや、そんな馬鹿な

「…ね、どうしてそんなに不機嫌なの?」

なるべく声を潜めて問いかけても、彼はやっぱり無言を保ったまま
元々無口だけど、この無言は居心地の良いものではない
どうして私がこんなにも理不尽で悲しいめに合わなきゃならないのだろう
原因は考えるまでもなく彼だ、しかし彼の目的や考えている事はサッパリ

「…松永の…匂い。」

「匂い…あぁ、先生の部屋は御香を焚いているから。」

「…腹立つ。」

「どうして?」

「………。」

答えたと思えば無言になる、そして最後には舌打ちだ
此の際私も一々ビクビクせずに開き直ってしまいたい…出来ないけど
制服の袖を鼻元まで運んでクンクンと嗅げば確かにあの御香の香りが少しだけ移っていた
匂いに敏感なのは現代を生きる忍だからこそなのか、言われるまで私は気付きもしなかった
先生の事が嫌い?それとも先生の好むこの香りが嫌い?
どっちにしたってそれを理由に私へ不機嫌を見せるのはやっぱり理不尽だ

「…っ、いっ…いたた。」

耳を引っ張られて強制的に向き合う形となった
声をかけたら良いのに、耳が痛みでジンジンとする
本当なら「痛い!!」と思いきり抗議してもみたい、でもかすがから新しいトラウマを与えられてしまう
痛む耳を摩りながら彼を見れば、やはり不機嫌さは相変わらずなまま
でも何か意味があっての事だろう、ほら、何か言いたそうにしている

「…なまえは、俺だけの。」

「それ、どういう意味が含まれているの?」

その言葉がどれだけ恥ずかしい言葉が自覚が無いのだろうか
隠れ風魔君ファンが聞いたならば卒倒、そして私は妬みで殺されてしまう

「…俺、の。」

「だから、風魔君の、になったら、私はどうなるの?」

俺のと主張するけれど実際に彼の所有物となった後、私はどんな扱いを受けるのか
今だって追われる身、ビクビクと脅え寿命を減らして過ごしているわけだ
確実に彼のものとなれば、と考えると私の頭では「生贄」しか答えが出ない
しつこく問いかけるのは気が引けるけれどはっきりさせたく、腕を組んで首を傾げる彼から視線を反らさない

「………ハムスター?」

「はむ…ハムスタァー!!??」

「なまえ!!!!貴様ぁあああ!!!!!」

「ひぇえええ!!!」

あんまりな返答に驚き叫べば、私に新たなトラウマが出来た


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