熱を持つ
「歴史的瞬間に立ち会えた事を、どう思いますか?」

「とても…光栄に思います。」

記者からの質問に答えるとまた一枚、カシャリと写真を取られ今日は厄日だと確信した
事の発端は突然風魔君が私を可愛いと連呼した挙句、白昼堂々好きだと告げた事から始まる
羞恥に耐えられず先に見えた発掘現場を目指し彼から逃げればこれだ
派手に転倒した際に抉れた地面から古代人の白骨が現れ、皆大慌て
私だって突然人骨が現れて愕然としていたのに…彼だけは全く動じて無かった
そして今、私は地元の新聞記者に囲まれインタビューの最中
発掘イベントに参加の手続きもせず殆ど乱入したと言った方が正しいけれど私が転んだ事によって見つかったのだから私が第一発見者、らしい
出来る事なら人骨なんて見たくなかった

「疲れた。」

「…ん。」

「ありがと。」

一時間近い撮影やインタビューが終われば皆人骨へと群がりようやく私は解放され、一人でベンチに座っている風魔君の元へと歩みった
手渡してくれたのはオレンジジュース、気が利くじゃないか
私としてはこれが彼との初デート、一度目は突然彼が映画館に現れ、二度目のお祭りは強制的なもの
今日だって強制と言えば強制だけど優しい私は初デートとしてカウントする
それなのに遺跡を探検して、突然の可愛い連呼攻撃を彼から受けて、最後に人骨発見、しかもインタビュー付き
良いか悪いかは分からないけれど一生の思い出となるだろう
ベンチの側にある時計が示す時間は夕方5時20分、帰りのバスは5時45分で、閉園時間は5時30分だからもう少ししたら此処を出なきゃ
片道二時間近くかかるから自宅に付くのは恐らく8時前…帰りのバスは眠っちゃおうかなぁ

「…アイツら、腹立つ。」

「何、突然どうしたの?」

ガシュッと妙な音がして何かと思えば酷く不機嫌そうな彼が隣で缶を握りつぶした
言葉を続けながら睨んでいるのは先程まで私を囲んで居た新聞記者の皆様
一緒に居た自分もインタビューを受けたいのに一切何も聞かれ無かったから怒っているとか?
だから拗ねて皆から離れたベンチに一人で座っていたの?

「俺のなまえを…勝手に、撮影した。」

「………ああ、ね。」

何だそんな事か、相変わらず過ぎるにも程がある
ここで私が風魔君のじゃないと野暮な事は言わずにいよう、面倒な人には適当な相槌だけで充分だ

「…帰るか。」

「ん、帰ろうか。」

バスの時間にはまだ少し早いけど閉園を知らせるアナウンスが流れ始め先に彼が立ち上がり、続いて私も立ち上がる
空になった缶の捨て場所に困っていると彼は離れた場所にあるゴミ箱へ自分の潰した缶と私のを投げ見事にゴールイン
歩きだせば彼が勝手に手を繋ぎ、徐々に私の歩幅にペースを合わしてくれた
自分勝手なくせして優しいし、此処をデートに選んだのは私が喜ぶと思っての行動
最初こそこんな遺跡で何をする気かと不審に思う気持ちと不満に思う気持ちがあった
でも今となればこれだけ地元から離れた場所なら知り合いに見られる事も無く珍しい物を沢山と見る事が出来たから少しは来て良かったと思う
沢山写真を撮られたけれど地元の新聞には載らない筈、今日の事を誰かに知られる心配は無い
教科書に載っていた貝塚やハニワに建物も見れて、歴史的瞬間に立ち会えたんだから…きっと良かったに決まってる
貝塚って不思議、防空壕と同じで深い穴ってだけで入りたい衝動に駆られる
底は暗く雰囲気も不気味で恐いのに、それでも入りたくなるなんて不思議としか言えない
まぁ、過去のトラウマが蘇るし入ろうにも硬いガラスの蓋があるから無理なんだけど

「もう少し遅かったらずぶ濡れだったね。」

「…あぁ。」

バス停は園内を出て徒歩5分の場所にあって、そこに付いた途端バケツをひっくり返したような豪雨となった
幸いな事にバス停は屋根付き、私達以外にバスを待つ人は居ない
今になってあの逆さの照る照る坊主の効果が?それともただの偶然?
朝から降ってさえいてくれれば可愛いだの好きだの言われず、人骨と目が合う事も無かったのに
って言うか、って言うか、さ!!
私って可愛いの?風魔君から見て?この私が?可愛い?私が可愛い?女の子として、私が可愛い?
あれは確かに聞き間違えでも嘘でも無く、彼は確実に私を可愛いと言った
昨晩自分の容姿を気にしていた私の心を読んだの?ただの機嫌取り?
ああ駄目だ、思い出すだけで顔が赤くなってしまう…っ

「ひ、昼間は温かかったけど、寒いね。」

何か喋って気を紛らわしあの恥ずかしい言葉は記憶から抹消しよう、その方が身の為
実際に雨が降り出した事により温度は下がっているから流石にワンピース一枚では肌寒い
唯一温かいと言えば彼と繋いだ掌、意識すると更に熱を感じるからあまり考え無いようにしよう

「寒いのか。」

「ちょっと…って、抱き締めたりしなくて良いからね!!」

予想的中、少しだけ此方に動いた彼が私の発言により機嫌を損ねた
他に誰も居ないとは言え外で抱き締められるなんて絶対に阻止してやる
暖を取る為に異性から抱き締められる、考えただけで少し体温が上がった気がする
バスが来る予定時刻まであと5分、もう少しの辛抱だ

「なまえ。」

「なに…っや。」

何をするかと思えば彼は私のうなじにかかる髪の毛を払い退けそこへ軽く口付けた
馬鹿じゃないの?って言うか馬鹿でしょ?馬鹿じゃなきゃこんな事出来ない…この色魔!!

「…っ変態!!」

「温かくなっただろ。」

罵声に対して彼は堂々としているだけで、一瞬にして赤くなった私の顔を見てクスクスと笑った
温かいと言うよりは熱い、恥ずかしさで熱が出てしまいそうな程だ
もしもこのまま私が高熱を出して死んでしまったら全て風魔君の所為
絶対に成仏せずに悪霊として毎晩彼の枕元に立ってやる
一瞬だけでもうなじに触れた唇のリアルな感触を早く忘れてしまいたい

「なまえ、可愛い。」

「ほ、ほら…バス来たよ!!」

何さ馬鹿の一つ覚えみたいに同じ事ばっかり言っちゃってさ
言えば言う程私が喜ぶとでも?そんな事は無い、全然、全く喜んでなんて無いんだから
ただ恥ずかしいだけで、少し…だけ、ほっとした気がする…少しだけね!!

「バスに乗ったら家に着くまで寝るからね、風魔君の相手なんてしてあげない。あと、変な事しないでよ?絶対に!!」

「分かった。」

本当に分かっているのやら、今まで寝ている私に触れた前科があるくせに
どうせなら席を別々にしたいのに彼が購入したバスの切符は指定席で隣同士
私が窓際なのは良い、暇になれば窓を見て暗いけれど景色を楽しめる
でも窓際、つまり追い詰められた場所ではもしも彼が妙な事をしようとした時は通路側に座る彼に道を阻まれ逃げる事は不可能
このハプニングデートが無事に終わるよう、必死に願おう

(…恥ずかしい。)
(からかいがいがある。)


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