場が凍りつく
昨日私が逃げ出した場所から風魔君の家までの距離は約駅3つ分
徒歩だと軽く1時間はかかるだろう
前日の自分がどれだけ彼から逃げる為に一心不乱で街中を駆けていたのかが良く分かる
そりゃ迷うよねぇ、と自分の事なのに素直に納得だって出来てしまうくらいだ
そして今朝、私はその距離プラス自宅までの距離を風魔君を隣にして徒歩での帰宅を午前から午後となった頃に終えた
更には彼と強制的に手を繋がれ始終殆ど無言だったものだから生きた心地すらしなかった
私の自宅まで無事送り届けてくれた彼は今日もいつもの如くまだ一緒に居たいとごねて下さったがそれを私は心を鬼にしてお断りさせて頂いた
今日と明日の休日を使って私は今後彼とどう接するかを考えなくてはならないのだから

「だからってどうして俺様の家に来るかなぁ…。」

「だって私達、マブダチじゃん。」

「…いつから。」

一人で考える、そう決めた筈の私が訪れたのは佐助君のお家
理由は妙に落ち着かないし、こういうのは一番状況を知っている人に話した方が良いと思ったから
一応は恋愛話しなのだから女友達にすべきかとも迷ったけれど全員状況を楽しんで居るので論外
インターホンを押した数秒後、扉を開いた彼が私を見て頬を引き攣らせたのは気の所為であって欲しい

「そもそもどうして俺様の家が分かったの?」

「交番で聞いたら珍しい名前だからすぐに分かったの。」

「そこまでして…まぁ、今のなまえちゃんには同情せざるを得ないから良いけどね。」

よくもまぁ堂々と本人の前でそんな事が言えるものだ
私なんて同情なんてしてはならない事、でもしてしまうと昨日はずっと葛藤していたのに
相談相手となって欲しかったけれどさり気なく彼の隙を狙って何かこの部屋から恥ずかしい物を見つけてやる
見つからない場合は風魔君に佐助君から蹴られたとでも言って制裁を与えてもらおう

「で、結局どうしたいの?俺様的には良い感じに進んでいると思うのに。」

「…強制的に宿泊させられたのに、何が良い感じなの?」

「だって以前のなまえちゃんなら絶対に風魔の股間でも蹴って逃げてたし、家にお邪魔したとしても宿泊は例え自分が全裸でも脱出したと思う。」

「ねぇ、私の事野生児か何かと勘違いしてない?」

あ、目を反らした
その反応や台詞に腹が立つけれど一理ある、以前の私だったらどんな理由があったとしても宿泊は絶対に許さなかった
今回それを許したのは…いや、許したんじゃなくて諦めただけ
だって両親にまで連絡済みとなっていたし、彼のお爺さんは私を歓迎してくれていた
監禁状態って事もあって私に逃げ場なんて無かった
でも本当に無かっただろうか、逃げようと思うならいつまでもポケットに隠したままではなくトウガラシスプレーを使って彼に攻撃を仕掛ける事が出来た筈だ
そう言えば今朝帰宅した際に気付いたけれど防犯ブザーとをそれが消えているのってどうして?

「ストーカーなのが嫌なのは分かるけどさ、風魔の事は嫌じゃないでしょ?」

「…まぁ、それは…。」

「なまえちゃんの方が先に風魔へ惚れたって俺様聞いたし。」

「……惚れたんじゃなくて、素敵って思っていただけ。」

誰がそんな事を彼に吹き込んだんだろう、思い当たる節が沢山と居て見つからない
それが風魔君の耳にまで届けば最後
ポジティブな彼の思考が今よりぶっ飛んでしまう
事あるごとにそれを口にして私を脅して来るに決まってる

「今は?」

「…ストーカーで、変態、俺様、ガキ大将、鬼畜、意地悪、横暴、自分勝手。」

「………。」

「あと、ちょっと、ちょっとだけ、ちょっとだけだよ?ちょーっとだけ、や、優しい…。」

「あれ、今日は惚気に来たの?」

「違う!!」

馬鹿!!と彼の顔を座布団でバンバン叩いても憎たらしいニヤケ顔は消えないしケラケラと笑われる始末
今の話しで何処に私が惚気ていると受け取れる要素があっただろう
素敵だと思っていたままの風魔君に自分が好かれたなら誰かに少しは惚気てみたい
現実はあまりに無情だって事をこの年で悟るだなんて事、したくなかった
佐助君ならきちんと真面目に話しを聞いてくれると思ったのに完全な人選ミスだ
どうして私が恥ずかしい思いをしなきゃなんないの

「なまえちゃんなんだかんだ言って風魔の事好きじゃん。」

「す…っ!?好きじゃないよ!!嫌いじゃないだけで…ああもう!!どうしてそんな事言うの!?」

「じゃあなまえちゃんは嫌いじゃなければ熱烈な求愛をする相手と付き合うの?」

「ちーがーうー!!風魔君じゃなきゃ断るもん!!」

「…ほら、好きじゃん。」

「…っ違う!!」

再び彼を座布団で叩いてもやはり笑っているだけで憎たらしさは現在進行形で倍増中
今日のお返しはきっちりと100倍にして返す、これは絶対
どうしたら私が彼に惚れていると解釈出来るんだろう
解釈ならぬ介錯してやろうかとまで思えてしまう
私はただ今の彼をどう思っているかを教えている最中、あまりにも彼を悪く言っているような事に気付いて少しだけ優しいと告げただけだ

「まぁこれも時間の問題って事でさ、なまえちゃんもそう真剣に考えず気軽に風魔と接していたら良いと思うよ?彼是考えるから余計難しくなるだけだって。」

「…佐助君、前は私の味方だったのに。」

「そう言わず、助言だと思ってよ。」

助言じゃあない、私をからかって楽しんでいるようにしか見えない
以前の彼なら絶対に私の味方となってくれて身を張ってまで私を助けてくれた
風魔君を説得までしてくれて良い人だったのに…役には立たないけども

「お揃いのピッチまで買って貰ったんでしょ?断らずに持ってるじゃん。」

「…持たされているだけ。それに、仕返しだってしてる。」

「ああ、彼女という立場を利用して…だっけ?」

「そうだよ、彼女である私にーって言って、優位に立ち彼に好き勝手させない。」

「好き勝手されてるし、それあまり口にするのやめた方が良いよ?」

「…どうして?」

「わざと周りに自分は風魔の彼女ですって自慢しているように見えるから。」

彼の言葉に掠れた声で「嘘」と呟けば「ほんと」と短く返され頭痛を覚えた
私にとっては一番良い策だと思っていたこの策が裏目に出ている?
彼の言っている事が正しければ私は痛い子じゃないか
真相は掴めないがやめておこう、二度と人前で彼の彼女だと思われてしまうようは台詞は言わない

「風魔からしたらその台詞はなまえちゃんが浮かれているように受け取れるかもね。」

「…私の真似して、自分は私の彼氏だからってキスするように言って来た事がある。」

「………した?」

「してない!!」

あの状況を回避する為に桃饅で間接チュウをしたとは言わないでいよう
言えば絶対彼はその行動すら私が彼に惚れている証拠だと決めつけるから
惚れてなんて無い、嫌いじゃないだけ
では今後私が彼に惚れる可能性はあるかと尋ねられたとしたら、それは彼のストーカー行為が無くなればとしか言えない

「桃饅で間接キスしちゃうくらいの仲なのにね。」

この野郎、見ていたのか
間接キスくらい良いじゃん、誰だってそのくらい友達と出来る筈
ジュースを皆で分け合う事なんて学生なら日常茶飯事
よって、私のあの行動は別に大して恥じる事ではない…と、思いたいです

「風魔のストーキングは相変わらずだけど、なまえちゃんも慣れつつあるからなぁ。」

「慣れたくなんてなかった。」

「実は眠っている間に体にGPSとか埋め付けられていたら笑えるよね。」

「空港のセキュリティチェックで金属探知機反応しちゃうとか?」

そう、と楽しく答えた佐助君につられて私も笑ってしまう
流石にそんな事まで彼がしないのは分かっているからこういう冗談は許せる
現代を生きる忍でも人体に何かを埋め付けるとかハイレベルな事は出来やしない
そう思いつつも僅かな不安を持ち確認の為に手首や太股に御臍辺りを触れてみた
…良かった、何かが埋められているような感触も違和感も無い

「そのピッチも電池パックのカバー外したら何かあったりしてね。」

「…佐助君、やめよう?」

それは笑えない、だって一気に背筋に寒気を感じたから
確認しようと思えば出来る、ポケットに原電を落としたままだけど入っている
もしも本当に何かあったらどうしよう、私の現在地が知られているという事になる
体内に埋められていたら、の話しだとケラケラ笑えたのにピッチだと現実的過ぎる
お願い佐助君、私の不安を煽るようにそこまで青い顔をしないで

「…ごめん、俺様が責任持って確認するよ。」

「お願いします。」

見なければあるのか無いのか分からない、でも分からないままは落ち着かない
それは彼も同じらしく、申し訳なさそうに腕を伸ばされたので素直に問題となっているピッチを手渡した
風魔君が私にピッチ、ではなくGPS搭載済みのピッチを渡したのか渡していないのかが分かる瞬間だ
お願い風魔君、どうか無実であると信じさせて…っ!!

「………。」

震える指先でカバーを外した佐助君が苦虫を噛み潰したような顔をしたので、私は両手で顔を覆った

(…そ、そこまで…っ!?)
(俺様殺される?)


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あきゅろす。
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