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monopoly.2
報酬、としてわざわざ顔を隠した使者が持って来たのは一抱えほどもある子供が喜びそうな外装のそれだった。



カモフラージュのつもりだろうか、まるで贈り物か何かのように綺麗に包装されたそれにはご丁寧にリボンまで巻かれていた。包装の上から容赦なくナイフで突き立てれば、カツンと金属同士が擦れる音がした。




一見すれば、缶入りのクッキーのプレゼントに見えるが、中身はいつも通りに金貨だろう。


一応用心の為に軽く横に振ってみるが、特にいつもと代わりはなかったので、密閉された上蓋と本体の隙間に先ほどのナイフを差し込んで、梃子の原理でこじ開ける。さほど力を要らずして缶の蓋は外れた。



金で飽和状態のそれを目の高さで逆さにして、丸テーブルの上に中身を思い切りぶちまける。


派手な音を立てて鋳造から年月を経た硬貨が金の雨のようにテーブルに降り注ぎ、乗り切らなかった分は床に敷いたラグに零れ落ちた。



中身が空になったことを確かめて改めて缶を覗くと、底に白い封筒が頑丈に張り付けられていた。


爪で封筒を剥し、空になった缶は床に放った。



途端、ラグに散らばった金貨と当たって煩い音を上げるが、まったく無視して革張りのソファに身を横たえて封筒の封を切った。





封筒の中に入っていたのは二つ折りの赤い厚紙が一枚だけ。外側に金の箔押がされたそれはグリーティングカードのようで、まったく念の入ったことだと、関心を通り越して呆れた。



開いてみると、外側の箔押と同じ金文字で癖のない英語の筆記体が書かれていた。



内容も平素と変わりなく、仕事の成功に対するあくまで形式上の感謝と報酬の額。そして後半部分には次の仕事の詳細事項と恐らく偽名の連絡先だった。


一通り読んで暗記すると、懐から取り出したライターで火を付けて、手近のサイドボードの上の灰皿に捨てた。





この段になってようやく両腰のホルダーから二丁の紅い拳銃を抜いて、寝そべった姿勢のままサイドボードの引き出しにしまうと、身体中から力が抜け、急激に眠気に襲われた。



さすがに硬いソファの上で眠る気にはならなくて、渋々身体を起き上がらせて隣りの寝室まで危うい足取りで向かう。



今さら着替えるのも酷く億劫で、そのままの格好でベッドの上に倒れて、仰向けで一度大きく伸びをした。



ピンクと紫の縞の猫耳の先からおそろいの鉤尻尾の先まで溜まった疲れを落とすように、頭の片隅に手紙の返事と拳銃の整備をすることを書き留めて、広すぎるベッドに沈み込んだ。





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あきゅろす。
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