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悪夢を欲しがる少年 【リヴァエレ】


ある日、俺は奇怪な夢を見た。




民家を吹き飛ばす、人を喰らう人の形をした巨大な生物の夢。

襲われる人間たちは絶叫し、為す術もなく逃げ惑う。
巨大な生物は、それらを無感情に掴んで時に残酷に握り潰し、最後には喰らってしまう。

奴らが暴れた跡には大量の血が流れ、誰とも分からない肉塊が捨て置かれている。


こんなことは知らない。こんな残酷なことは・・・。

そうだ。これは夢だ。早く、早く醒めてくれ!

現実ではないはずなのに、これが現実なんじゃないかと心のどこかで思っている自分に恐怖する。

違う。俺はこんな恐ろしいことは知らない。


こんなことは―――。







 「戦え!」






 
恐怖で頭がいかれてしまったのか。

突然、脳内で誰かの声が強く反響する。


誰だ。俺は何と戦えっていうんだ。
何の事だか理解できない。
だけど、声の主は俺の感情など無視して、只々繰り返し脳に直接訴えかけてくる。


戦え。戦え。戦え。



そして、唐突にそれが自分がいつの日か叫んだ言葉であると理解した。


そうだ。そうだった。
俺はこの凄惨な世界に確かに存在していた。
奴らを駆逐するため、自由の翼を背に戦った。
自由を掴むために心臓を捧げていた。



ダムが壊れたかのように次々と記憶が頭の中に流れ込んでくる。

それでも、まだ大切な何かを忘れているような気がする。
この情報だけじゃ足りない。もっと、もっと思い出せ。


人を喰う奴ら・・・巨人を駆逐し、全滅させて、それから――――








「・・・レン・・・エレン!目を覚ませ!!」

鬼気迫る声に引っ張られて、ぐわっと目を見開いた。


いつも通りの見慣れた天井が見える。
傍らにはひどく血相を変えたリヴァイさんがいた。
俺が目を覚ましたのが分かって、ほっとしたように俺の右肩から手を離す。

起こそうとずっと体を揺さぶってくれていたんだろうか。
どうやら連れ戻してくれた声の主はリヴァイさんだったらしい。




あれは間違いなく夢ではなかった。
この世に生まれる前に俺が生きた、以前の世界の記憶だ。

こんなことを思うのは普通じゃない、いかれている。

とどこかで思っているのに、不思議とすんなり受け入れてしまった。

目が覚めてよかったとひどく安堵するのと同時に、もっとあの場所に留まりたかったと、恐ろしいことを考える俺が心に巣食っている。



余程ひどくうなされていたのか、心臓の拍動は異常に早く、体には嫌な汗をびっしょりと掻いていた。

「深呼吸をしろ。とりあえず落ち着け。」

体を起こしてから、リヴァイさんの言うとおりに呼吸を繰り返す。
それから用意してくれた水を一気に飲み干して、ふうと一息ついた。

「ありがとうございます。お蔭で、少し冷静になってきました。」

短くお礼を言ってから、忘れまいと急いで頭に残っている記憶を整理しようと思考を巡らせた。


なにか得体のしれない感情が、早く早くとせかしてくる。
なぜか、俺はさっきの事全てを忘れてはならないと、心が妙な使命感で支配される。




前世で、俺は巨人を強く憎んでいた。

壁の外へ出る自由を奪い、母を、仲間を、人類を殺した巨人を根絶やしにするために、俺は・・・・・。





「エレン。これ以上思い出そうとするのはよせ。」
リヴァイさんの制止の言葉に考える作業を遮られる。

同時に、違和感を感じた。
どうして俺が思い出そうとしていると分かるんだ。

まるで、もう何もかも知っているかのように聞こえる。

「どういうことですか。もしかして、リヴァイさんはあの世界で起きたことを全て分かっているんですか。」

ベットを出て、リヴァイさんの両肩を掴み、懇願した。

「なら教えてください!俺は思い出さなきゃならない。あいつらを・・・巨人は全て殺せたのか?!ミカサは、アルミンは無事でいたか?!」



「もうやめろ!!!」

リヴァイさんは悲痛に叫んで、俺を抱きしめた。
その力は痛いほどに強くて、まるで俺がどこか遠くに行ってしまうのを防いでいるかのようだった。


「・・・テメーには幸せになってもらわなきゃ困るんだよ。だから、頼む。思い出すな。」



その言葉で、俺はついに悪夢に縋ることをやめた。
リヴァイさんの目には、薄く涙が滲んでいた。



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