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過去拍手お礼
ルクガイ
『ルーク、ちょっといいか?』

思い詰めたような、真剣な面持ちで現れた大事な親友の姿に、俺は考えるまでもなく部屋を出た。



周りに何もない小高い丘の上で見る夕暮れどきの空は、とても幻想的で。
オレンジや赤、黄色や金色などが入り乱れた神秘的とも言えるこの絶妙なバランスは、見る者全てを魅了してしまうだろう。

かくいう俺もその魅了された者の一人な訳で。
しばらくの間我を忘れ、ずっと空を見上げていた。

俺をここに連れ出した人物――ガイも、同じようにただ空を見上げていた。



それからどのくらいたったのだろう?
空に夜の色が映り始めた頃、ようやくガイが口を開いた。

「なぁ、ルーク。俺はどうすればよかったのかな?」

空を見つめたまま話すガイの表情はわからない。
だけど、話の指す内容はすぐにわかった。

……ヴァン師匠のことだ。

ガイも俺が察していることに気付いているのだろう、そのまま言葉を続けていく。

「確かにアイツのやり方は間違ってたさ。……だけど、それでも最初は同じ志を――復讐を、共に誓った同志なんだ。」

"復讐"という言葉に、胸がチリッと痛む。
恨まれていたことは事実だし、そのことをちゃんと受け入れることも出来た。
だけど、やっぱりガイの口からその言葉を聞くのはまだ辛い。

「悪いな、ルーク。……でも、これは事実なんだ。」

「ああ、わかってる。」

ちゃんとその業を背負って生きていく覚悟は出来てるから。
……もちろん、旅の途中で犠牲にしてしまった、全ての命の分まで。

「……そうか。強くなったな、ルーク。……それにくらべて駄目だな、俺は。いつまでも、あのときのことを引きずってるなんて。」

そう言って自嘲気味に笑うガイの姿は、とても痛々しい。

「あれから、ずっと考えてるんだ。『俺は、ルーク達についたままでよかったのか』『ヴァンの傍にいるべきではなかったのか』って。」

「だけど、ガイが俺達についてくれたおかげで、世界は助かった。」

「結果的には、な。だけど、俺が考えてるのはそこじゃない。……もっと、個人的で自分勝手なことなんだ。」

「自分勝手?」

「ああ。最初に言ったように、俺はヴァンと復讐を誓った。だけど、俺はルーク達についた。……それが、どういうことかわかるか?」

真剣な瞳で問いただしてくるガイに、俺は頭の中で必死に考える。


最初はヴァン師匠と復讐を誓い合ったけど、俺達についた。
――ということは。


「まさか、"裏切った"とでも言い出すつもりか?」

「……そのまさかさ。俺は、ヴァンを裏切ったことになる。」

「違う!確かにガイとヴァン師匠は昔復讐を誓い合った。だけど、ガイとヴァン師匠の目的は段々と違っていったから離れたんだ!だから、裏切ったなんてことはない!!」

「ありがとう、ルーク。だけど、俺がヴァンを裏切ったことは変えられない事実なんだ。」

「……。」

「だから、いつまでも考えてしまうんだ。俺は、どうするべきだったんだろうって。……ヴァンデスデルカ一人に、全てを押し付けてしまってよかったのかって。」

ぽつりと呟いた声は、少しだけ掠れていて。
泣いているのかと思い、ガイの表情を伺おうとしても、俯いてしまっているためよくわからない。

「わかってた。……わかってたんだ。結果を考えれば、ルーク達についた方が正しいって。俺も、その方がいいって思った。だから、俺は自分の思った通りに行動した。……だけどッ!!」

顔を上げ、前を見据えるガイは、泣いてはいなかった。

「……だけど、納得出来なかったんだ。しっくりこなかった。自分で、ちゃんと選んだことなのにな……。」

「ガイ……。」

「それでわかったよ。俺は、自分の意思ではなく、世界と自分の気持ちを秤にかけただけだったんだ。普通に考えれば、その答えなんて一目瞭然さ。……だから、ルーク達についたんだ。」

「……ガイ、もういい。」

「アイツのやり方なんて関係なかったんだ。俺は、ヴァンデスデルカの傍にいられれたらそれでよかったんだから。……なんだ。どっちみち、俺は裏切り者みたいだな。」

「もういいって言ってるだろ!!」

ハハハ、と渇いた笑みを漏らすガイを見ていられなくて。

とっさに抱き締めていた。

「……ガイ。キツイ言い方かもしれないけど、これはもう終わったことなんだ。今更何を言っても変わらない。」

「……。」

「だから、もう一人で苦しまないでくれ……。」

昔は大きいと思っていたガイの身体も、今ではそんなに変わらなくて。
腕の中の温もりを逃がさないように、強く抱き締める。

「……俺は、ヴァンデスデルカの傍にいたかったんだ。その気持ちは、本当なんだ。」

「……うん。」

「だけどな、今、こうして世界が廻っていることに、ほっとしている自分もいるんだ。」

「……うん。」

「今更何を言っても変わらないってことはわかってる。どうしようもないってことも。……だけど、どうしても考えずにはいられないんだ。」


――本当に俺は、どうすればよかったのかな……?


寂しげに響いた言葉は、夜の闇に溶けていった。


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