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Gift
secret cipher
深夜、みんなが寝静まったであろう時間。
静かに部屋を出る。
幸い、今日は一人部屋をとれたので、脱け出すには丁度良かった。

外に出る。
夜風が身体に心地いい。
見上げた夜空には、数えきれない程の星が散りばめられている。
少し視線をずらしてみると視界に入る、一際輝くまるい月――シルヴァラント。
一般的にはおとぎ話だと言われているが、確かに存在する世界。
この世界――テセアラと、切っても切れない関係にある世界。
お互いを、搾取しあって繁栄と衰退を繰り返す。
とんでもない、イカれた世界。

(ま、そのイカれた世界を創った張本人様に仕えている俺様も、大概イカれているけど)

だが、何も情報を流しているのは、クルシスだけにではない。
レネゲードにも、情報を流している。
そして、表向きにはロイド達についている俺様は、三ヵ所を飛び回るコウモリ。

(大概、なんてモンじゃなく、俺様が一番、イカれてるかもな)

ふと、そう思って一人自嘲する。

すると、突然背後に感じた気配に、反射的に剣を抜き、振り向く。


カキィーン―――


剣と剣の擦れ合う音が響くと同時に、腕に感じる剣を受け止められた重み。
そのまま相手を見てみれば、綺麗な蒼い羽根を携えた天使様。
――俺様が今日、定期報告をする予定の相手だった。

「…ンだよ、天使様かよ〜。驚かせんじゃねぇよ〜。」

そう言いながら剣をしまうと、「…すまなかった。」と天使様も剣をしまった。

「…で?どうして天使様は俺様の後ろから登場してきたのかなぁ??」

"俺様の背後には立つな"と、いつも言ってるだろ?
暗にそういう意味を込めて訪ねる。

「…神子が、なかなか約束の地に訪れないので、様子を見に来た。」

「…へぇ〜、そりゃ悪かったな。」

俺の言葉の裏の意味にも気付いているくせに、あえて気付かないフリをして答えるクラトスに、内心毒づきながらも話を進める。

「それじゃ、せっかく天使様がわざわざ来てくれたんだし、ここで報告しちまうぜ?」

「ああ、構わん。」

(…天使様は、いつもエラそーなこって。)

相変わらず、すかした態度のクラトスに、心の中で悪態をつきつつ、報告を始める。

「…アイツらは、ひたすら精霊達と契約してまわってるよ。……無駄なのにな。」

――そう。アイツらがやっている事は、無駄な足掻きに過ぎない。
何せ、あのイカれた過去の勇者様ですら、どうにも出来なかったんだ。
…あんな甘い考えの理想論なんて、叶えられる訳がない。

「…そうか。」

「コレットちゃんの、永続天使性無機結晶症…だっけ??本人が必死に隠しているからか、まだ誰も気付いてねぇけど…確実に、症状が悪化してるみたいだ。」

俺には、何故だかその事がわかった。
……きっと、笑顔で全てを偽り隠してしまう所が、俺と同じだからだろう。

「…やはりな。だから、あの首飾りを外せと言ったのだが…愚かな娘だ。」

「…ま、それはしょうがねぇんじゃねぇ?コレットちゃんはロイド君の事が好きみたいだしよ〜。…やっぱ、好きなヤツから貰ったモノはそう簡単に手放す事は出来ないさ。」

(…この俺様ですら、手放す事なんて出来ないでいるんだから…。)

心の中で、呟く。

「…ほぅ、神子の口からその様な言葉が出てくるとはな。…神子にも、その様なモノがあるのか?」

すると、俺の言葉に、クラトスが意外そうに尋ねてきた。

「…ある、って言ったら?」

気付かれない様に、何度も捨てようとして、出来なかった左手首につけているモノに、服の上からそっと触れ、試すように問いかける。

「…それがどんなモノなのか、興味はあるな。」

「…へぇ、天使様に興味を持って貰えるなんて、な。…光栄だぜ。」

言葉や表情は皮肉っぽく答えながらも、本当は嬉しかった。
…クラトスに、興味を持って貰えた事が。
なぜなら、俺の手放せないモノ、それは…


―――クラトスから、貰ったモノだったから。





俺がクラトスと初めて出会ったのは、まだ子供だった頃のある日の夜。
背中に輝いている綺麗な蒼の羽根に魅せられ、本物の『天使様』だと思ったのに、人間であった事に、酷く落胆した事を鮮明に覚えている。

それでも、神子である俺には話し相手なんていなかったから。
時折フラッと部屋に訪れるクラトスと話すのが、俺の唯一の楽しみとなっていった。

そして、俺が十四歳になる誕生日の日。
いつもの様に現れたクラトスと他愛もない話をしていると、急に差し出された綺麗に包装された小さな箱。
いきなりの事に呆ける俺に、「…誕生日プレゼントだ。」と、珍しく目をそらしながら照れくさそうに言ったクラトスが印象的で。

…クラトスから何かを貰ったのは、これが初めてだったから。
プレゼントを貰った事に、思っていた以上に喜んでいる自分に驚く。

そして、はやる気持ちを抑えながら中を開けてみると、シンプルだけど精巧な細工が施された、綺麗なシルバーのブレスレットが入っていた。

「…お前に似合うと思って選んだのだが……気に入って貰えただろうか?」

「…ああ、気に入ったよ。…サンキュな。」

不安げに尋ねてくるクラトスに、俺は平静を装って笑顔で答えると、「…そうか。」と、ほっとした様な、嬉しそうなはにかんだ顔を向けられる。

――その顔に、胸が高鳴るのを感じた。
そして同時に胸に広がった、初めて感じた気持ち。

…きっとこの時にはもう、クラトスに惹かれていたんだろう。

その日から、常に俺の左手首に嵌められるようになったブレスレット。
クラトスと会う度に膨らんでいく、よくわからない感情。
…会えない日は、自然とこのブレスレットを眺める事が多くなった。

俺の中で少しずつ…でも、確実に大きくなっていくクラトスという存在。

――怖かった。
よくわからないこの感情に気付いてしまう事が。
…クラトスに、溺れてしまいそうな事が。

だから俺は、このブレスレットを捨てようと、何度も手にかけた。
…だけど、いざ捨てようとすると、あの時のクラトスの顔が頭にチラついて。
…あの時の嬉しさが、甦ってきて。
――踏み切る事が、出来なかった。

そして気付かされた事実。…それは、

……もう既に、俺は…



ク ラ ト ス に 溺 れ て い た と い う こ と 。



その事に気付いてからは、自分の気持ちをクラトスに知られない様、隠す事に必死だった。

『決して、気付かれてはいけない。』

その言葉を、頭に深く刻み込んでいた。
…もし知られたら、もう俺の元へ訪れては貰えなくなってしまう様な気がしたから。

――そんなのは、絶対嫌だった。


だから、俺は演じる事にした。

"今までの俺"と変わらない話し方を。
"今までの俺"と変わらない態度を。
……"今までの俺"と変わらない感情を。

そうやって"今までの俺"を演じる裏で悲鳴をあげる、"本当の俺"を押し殺しながら…


そのおかげ、と言うには余りにも皮肉だけど、感情を抑え、自分を偽る事が上手くなった。

――そう、『三ヵ所を飛び回るコウモリ』になっても、道化を演じていられる程に。





「…それで、神子の手放せないモノ、とは一体何なのだ?」

クラトスのその言葉に、記憶の方へ向いていた意識が現実へと戻される。

「…さぁてね?一体何なんでしょ〜?」

茶化す様にしてごまかす。
…あれから数年たった今ですら、気付かれてはいけない事に変わりはないから。

だから、答える事は出来ない。

「み…「ま、そんなのどぉだっていいじゃん?それより、もう報告は終わったんだし、このへんでサヨナラしよ〜ぜ??」

なおも聞こうとするクラトスに、俺が言葉を重ねる事で無理矢理会話を終了させる。
…本当は、もう少し一緒にいたかったけど、仕方がない。

「…じゃあな。」

そう言って背を向け、歩き出そうとした瞬間――

「…待て。」

低い声が聞こえたと同時に、捕まれた左手首。
いきなりの事に、遅れる反応。

「…?神子、手に何かつけているのか?」

…ヤバイッ!!

頭は『早く逃げろ』と命令を出しているのに、身体はまるで固まったかの様に動かず、言う事を聞かない。

…早く!!早く、逃げなければならないのに…

そう思いはするものの、気が焦るばかりで、身体は動く様子を見せなかった。

俺の手袋を脱がせようと伸びてくる、いつもは見とれてしまうクラトスの細く長い綺麗な指も、今の俺には悪魔の指にしか見えなかった。

徐々に脱がされていく、手袋。
背中に、嫌な汗が流れるのを感じる。

そして、とうとう晒された、左手首。

「……これは…。」

クラトスが、驚いた様な顔をしている。

「…アンタが、俺にくれたモノだよ。」

震える声を、必死に抑えながら答える。

「…ああ。確か神子が十四になる誕生日に、私が贈ったのだったな。…もう何年もたつのに、まだつけてくれていたのか。」

あんな昔の事を覚えてくれていた上に、そう言って、嬉しそうに微笑んでくれるから。
こんな状況なのにも関わらず、嬉しくて――胸が高鳴って。

…泣きそうに、なる。

「……。」

「…神子?」

急に俯いて黙り込んだ俺を、心配そうに呼ぶクラトスの声。

「……だよ…」

「…?」

「…なんで、アンタはいつも…そうなんだよ…。」

こっちの気も知らずにそうやって、俺を心配してくれるから。
…優しく、微笑んでくれるから。

……今まで必死に偽って、押し殺してきた"本当の俺"を…

――抑えきれなくなる


「…俺は、ずっと、必死に……ッ…」

溢れる涙。
溢れる感情。
…一度溢れたモノは、もう止める事が出来ない。

「…お、れは…アンタのことが……ずっと…好、き…なのに…。」

「……。」

黙ったまま、俺を見つめるクラトス。

「……だから、…必死、にッ……なのに、アンタは…ッ…俺、…バカみたいじゃねぇかッ…!!…」

――これじゃあ、ただの八つ当たりだ…
そうわかってはいても、もう自分ではどうする事も出来なかった。

ただただ泣き続ける事しか出来ない俺に、ようやくクラトスが口を開いた。

「…神子、一つ聞いてもいいか?……間違っていたらすまないが、…神子の手放せないモノ、とは、そのブレスレットの事だったのか?」

その言葉に対して、頷く俺を見て、「…そうか。」と、優しく微笑んだクラトス。

そして、未だに泣き止まない俺を――抱き締めてくれた。

「…神子、もう泣くな。…どうやら私は神子に、だいぶ辛い思いをさせてきてしまった様だな…。」

…すまなかった。そう言って、優しく俺の涙を拭ってくれる。

この状況が理解出来ず、俺はただ、クラトスを見つめる事しか出来ない。

「…神子。何故、昔から私がお前の元へ訪れていたか、わかるか?」

真剣な瞳で問いかけてくるクラトスに、目を奪われながらも俺は答える。

「…俺を監視するため、だろ…?」

そう、だから俺は気持ちを知られない様、必死に自分を偽って来たんだ。
…監視役が、クラトスから代わってしまわないように。

そう答えた俺に、クラトスは首を横に振る。

「…初めの内は、確かにそうだったが……私は、お前と会いたいから、訪れていたんだ。」

その言葉に、目を見開く。

「…それ、って…?」

もしかして…。
思わず、期待を込めた瞳でクラトスを見る。

すると、照れた様な、はにかんだ顔で頷き、言葉を紡ぐクラトス。

「…私も、神子が好きだ。」

そして触れ合う、唇と唇。

「…もう、これからは辛い思いなんてさせはしない。」

唇を離して、まるで騎士が姫に忠誠を誓うかのように手の甲に口付けたクラトスの言葉が、行為が、嬉しくて。

俺は心からの笑顔を返す。






…こんなイカれた世界でも、あなたと一緒にいられるのならそれだけで―――











はい、初のクラゼロです!!
案の定、このお話も最初考えていたお話と違うお話になっております(-_-;)
だから文がぐちゃぐty(略)←
これまた無理矢理感がありありと…orz
お話って難しいですよね…。(今更かいΣ)
素敵なお話を書いていらっしゃる方々を本気で尊敬します!!

ちなみに、天使様が神子の手放せないモノにこだわっていたのは、神子が何かに執着しているのが気に食わなかったからです。
この天使様は、神子の気持ちには気付いてなかったからこそ、何かに執着しているとわかって嫉妬〜みたいな感じでf(^_^;

こんな下手なお話でよければ、ぜひお持ち帰りしちゃって下さい!!
その際は、一言声をかけて下さるようお願い致します。
それでは長々と失礼しました!!

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