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Others
響き合う運命 1⇒リオン+ゼロス
世界中の生命とたった一人の生命

(クルシスとレネゲードとロイド達)



二つを秤にかければ、答えなど明確で

(三つを秤にかければ、答えなど明確で)



けれど、僕には彼女しかいないから

(俺には、こうする方法でしか救うことが出来ないから)



彼女こそが、僕の全てだから

(俺が消えれば、唯一の肉親である彼女は幸せになれるから)



だから、例え"裏切り者"と罵られてもかまわない

(だから、許してくれ、なんて言わない)



これが、僕の選んだ道だから――

(これが、俺の選んだ道だから――)














なかなか寝付けない夜。
それでも何とかして眠ろうと目を閉じれば、瞼の裏に浮かぶ、少し前まで共に旅をしていた、いつも能天気に笑っていた金髪を始めとする者達で。
決して馴れ合うつもりなどなかったけれど、少しでも居心地のよさを感じていたのは嘘ではない。

とはいっても、奴達を"仲間"だなんて一度も思いはしなかった。

……いや、違う。
そんな風に呼ぶ資格が、ただ自分にはなかっただけ。

ふとした瞬間に重くのし掛かってくる暗い気持ち。
まるでそれを振り払うかのように、リオンは軽く頭を振り、気分転換に窓の外を眺めた。

深い濃紺の夜空に、まるで穢れなど感じさせないかのような、神聖な存在を強く主張する満月がぽっかりと浮かんでいる。
あまりにも綺麗に輝くそれに、何故か心が惹かれた。
もしかしたら、まるで全てを浄化するかのように輝く銀色の光に、己の心の奥底に沈んでいる罪の意識を浄化できたら、と無意識に願っていたのかもしれない。

そう思い立ったところで軽く苦笑いを浮かべ、少し散歩でもしようか、と思い立ち、剣の癖にぐーすかといびきをかく愛剣を腰に携え、リオンは部屋を出た。








『ぼっちゃん、こんな夜中に何処に行くの?』

家を出て少し歩いた頃、長年連れ添った愛剣――シャルティエが口を開いた。

「……少し、散歩するだけだ」

『散歩?……ああ、今夜は綺麗な満月ですもんね』

「そういうことだ」

少しばかりぶっきらぼうに答えたところでこの剣は気にも止めず、こちらの考えまで汲み取ってくれる。
今回の件でさえも、一瞬ですら迷うことなく、自分についてきてくれた。
そんな相棒の存在に、どれだけ助けられ、どれだけ救われていることか。
心から溢れだしそうな程の感謝の気持ちを感じているけれど、照れ臭いから絶対に言ってやらない。

そんなことを思いながら、適当に歩を進めていると、ちょっとした森に差し掛かった。
木々に覆われた、閉鎖的な空間。
にも関わらず、まるで守護するかのように、変わらず上から自分達を照らし続ける月。

焦がれるように、腕を伸ばした。



――瞬間



満月を横切った、オレンジ色の影。
一瞬の出来事だったためによくは見えなかったものの、どうやら近くに降りたったようで。

「……シャル、見たか?」

『もちろんです。でも、何なんでしょうね?』

「調べに行くぞ」

何故だかはわからないが、心が強く惹かれた。
先程の、月へと焦がれたように。
逸る心に叱咤しながら、リオンは慎重に足を進めた。








少し開けた空間に出る。
気配を探りながらぐるりと辺りを見回すが、感じるのは崇高な月の輝きだけ。

この辺りではなかったのだろうか?

首を傾げつつ、踵を返そうと足を向けた、正にその時――



「何か、探しモノか?」

背後から突如上がった声に、反射的に振り返りながら臨戦態勢に入る。

男が立っていた。
先程までは確かに、何の気配も感じなかったのに。
気付くことが出来なかった己に舌打ちをし、鋭く睨み付ければ、男はニィ、と唇の片側だけを器用に吊り上げた。

「そんな物騒なモン抜かないでくれよ?おれさま、別にアヤシーヒトでもないぜ?」

「……それなら、何故僕の背後に立った?」

「別に深い意味はないぜ?ま、敢えて理由をつけるなら、その方がおもしろそーだったからかな」

変わらず、唇に笑みを刻んだまま話す目の前の男。
まるで雲のように掴み所がない。
はっきり言って、苦手なタイプだ。
どう対処すればいいか判断しかねる。

「……シャル、どう思う?」

相手には聞こえない程度の声でシャルティエに問い掛ければ、すかさず返答があった。

『一般人にしては、こんな時間にこんな所にいるなんて、不自然だと思います』

「僕もだ。……なら、調べる必要があるな」

『ぼっちゃん、一体どうするつもり?』

「簡単だ。取り押さ――「無理だよ」

突如割って入ってきた男の声にハッとする。

聞かれていた?
いや、まさか。
この距離で聞こえるはずがない。
……だとしたら、シャルの声が?

素早く思考を巡らせていると、答えを出すよりも先に男が口を開いた。

「何でわかったのか、って顔だな。あいにく、おれさまは耳がいいんだよ。……で、お前は?明らかにここにはお前一人しかいないのにも関わらず、まるで"誰か"と話しているみたいだったな?」

「……」

「見たところ、通信機なんてモンを持っているようには見えない。……なら、一体"何"と話してたんだ?」

心なしか、男の様子が楽しげに感じるのは気のせいだろうか。
知らず知らずの内に、男のペースに巻き込まれてしまっていることに苛立ちを感じながらも、男の言葉に引っ掛かりを感じた。

先程は、"誰"と言ったにも関わらず、次は"何"と言った。
ということは――


「……貴様、聞こえるんだな?」

主語のない言葉。
けれど、男には十分伝わったようで。

ニヤリ、とより一層深くなった笑みに、肯定なのだと受けとる。

「……貴様、一体何者だ?」

「さぁ?……天使、ってところ?」

「……天使、だと?」

予想もしていなかった言葉に、驚きを隠せない。

思わず、目の前の男を凝視する。

月の光を受け、神秘的な輝きを放つ、ふわふわの綺麗な緋の髪。

それとは対照的に、まるで晴れ渡った空をそのまま閉じ込めたかのような、スカイブルーの瞳。

驚く程に真っ白で、どこか淡雪を連想させるような透き通った肌。

精巧に作られた人形のように完璧な美しさを纏っている。

『……僕達の持つ"天使"のイメージ、そのものですね』

シャルティエの言葉に無意識に頷けば、「ま、確かにおれさま美しーし?」なんて、ふざけた男の言葉に、ふと我にかえる。

この際、この男が美しいかどうかはどうでもいい。
ただ、本当にこの男が天使なのだとしたら。
それなら、先程のオレンジの影についても辻褄が合う。

「……先程、月にオレンジ色の影が横切った。それは、貴様の仕業か?」

「あっちゃ〜、見られちまってたか。そーだよ、アレおれさま〜」

言葉の内容とは裏腹に、飄々と話す男に、軽く頭痛を覚えながらも、リオンは話を進める。

「一体何をしていたんだ?」

「何って、……夜のお散歩?」

こてん、と首を傾げる男に、思わず深い溜め息が口を吐いた。

「……何故疑問形なんだ。僕に聞かれてもわかるわけがないだろう!」

つい感情的になってしまいそうになるのを必死で堪えれば、でひゃひゃ、と笑う目の前の男。

一体何なんだこの男は?

とりあえず、敵ではないということはわかった。
……100%そうだとは言い切れないが。
けれど、何となく"この男は大丈夫"と自分の本能が告げていた。

それでも、理解には苦しむことに変わりはなく、そういえばまだ名前すら聞いていなかったことを思い出した。

「おい、貴様、名は何だ?」

「……人に名前を尋ねるときは、まず自分から名乗るのが礼儀ってモンじゃねーの?」

返された言葉に思わずムッとすれば、「わりぃわりぃ、ただ、言ってみたかっただけだから、気を悪くしないでくれ」と、少しだけ悲しみの混ざったような笑顔で答えた男に、何故か心が惹かれた。

そう、それはまるで、先程の満月に焦がれるのと似た――


「おれさまは、ゼロス=ワイルダーだ。"ゼロスくん"て呼んでくれていいぜ」

先程の表情は何処へやら、端正に整った顔でにっこりと笑顔を惜しむことなく向けながら言われれば、自分の意思とは関係なく顔が熱くなるのを感じた。

「……リオン=マグナス」

言った後、顔を背けた。

「……リオンくん、冷たぁい。おれさましょんぼり」

視界の端に、大袈裟に肩を落とす男――ゼロスが映る。

なんとなく、悪いことをした気になっていると、シャルティエが口を開いた。

『気にしなくていいですよ。ぼっちゃんは照れてるだけだから。あ、僕はピエール=ド=シャルティエっていいます。よろしくね!』

「へ?そーなの?」

「シャル!」

『あ、ムキになっちゃって。ぼっちゃんかわい〜!』

「ぼっちゃんかわい〜!」

「いい加減にせんか馬鹿共が!」

とりあえずゼロスを一発殴りつけることで、この場を納めることに成功した。








next destiny……




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