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「忍者、朝から突然だけど、お願いがある。」
地底・・・・・・そこに居を構える・・・汚い忍者達が住んでいる、パルスィの家に『怪力乱神』という二つ名を持つ星熊勇儀が訪れていた。・・・右手には忍者の首を後ろから掴みながら・・・
「・・・なんだよ。」
それに・・・勇儀の怪力を恐れて、逃げる事を諦め観念した忍者はどんなお願いなのか、聞こうとする・・・





「今日、みとりと花見に行ってきてくれないかい?」



















『雨のち桜』



















「はぁ?なんで、あの赤河童と花見に行かなきゃならねぇんだよ、めんどくせぇ。」
「まぁ、話は最後まで聞きなよ。」
勇儀はそう言いながら、右手の握力を少し強める。まるで、あんたの命は私の手の内だと言わんばかりに。
ちなみに、他の住人の不破達は勇儀が家に乗り込んできたからずっと見守っていた。なぜなら、勝手に中に入ってくるのは今に始まったばかりでない上に言っても聞かないからだ。・・・ただし、今は勇儀の花見発言でパルスィがパルパルと嫉妬しているが・・・
「・・・なんだよ。」
そんな中・・・忍者が不機嫌そうにだけど何か恐れている声で先を促す。
「理由はさ。萃香から聞いたけど、今地上じゃあ花見の時期じゃないかい。花見と言えば酒!!私も地上にいた頃はよく桜見ながら、飲んでたよ。」
「そんな事、聞いてねぇよ。本題を言え、本題を。」
「つれないねぇ・・・まぁ、いいや。それで、今度あんた達やさとり達と花見に行きたいって考えてたんだけど、一人だけ行きそうにない奴がいるんだよ。」
「・・・それが赤河童か。」
「そっ!皆で行こうったって、あいつは絶対行かないだろうからね。だから、皆で行かないで最低人数二人で行こうと言えば、大丈夫だって、私は考えたんだよ。」
「で、なんで、その二人の内一人が俺なんだよ。」
「みとりが一番心を開いているのがあんただからさ。」
勇儀はニカッと嬉しそうに笑いながら言う。それは見る者からは、信用してるんだな・・・と分かる表情だが、あいにく忍者からは見えない。なぜなら、後ろから首を未だに掴まれているからだ。
「な、いいだろ?今度、居酒屋『誰得』で奢るからさ。お願いできるかい?何もずっと二人じゃない。あんた達が行ってから、その後私達も行くからさ。」
そう言って・・・初めて、右手の力を弛ませ、忍者を解放する勇儀。どうやら、脅してまでお願いはしたくないらしく・・・逃げ出さないように捕まえていただけのようだ。まるで、お母さんと悪ガキの図である。
「・・・・・・・・・その時は竹輪をたらふく食わせろよ。」
そして・・・渋々ながらも、勇儀の顔を立てる為なのかそれとも食べ物につられてなのか分からないが・・・忍者は了承するのであった・・・






















「おーい、赤河童ー」


所変わって、みとりの家の前。その扉をドンドン叩くは汚い忍者。了承した後、少し勇儀と予定を組んでから早速行動に移ったのだ。面倒ごとはさっさと片付けるのが効率的という理由で。


「・・・なんだ、朝から・・・」
忍者の呼びかけに反応し、家から出てくるみとり。いつもの帽子が無い事と眠そうに目をこする所から見て、今お目覚めのようだ。
「地上に出るぞ。」
「はっ?」
相手の第一声に、怪訝な表情をして頭の上に?を浮かべるみとり。そんな彼女を見て、忍者は頬をつり上げ悪そうに笑い始める。
「へっへっへっwww いやな、今地上じゃあ、竹輪祭りがあるからそこに行こうと思ってよwww だが、竹輪集めるのに一人じゃあ、心持たねえから赤河童にも手伝ってもらおうと、なwww」
「・・・生憎だが、私はお前のそれに付き合うほど暇じゃない。他を当たれ。」
相手の言葉に対し、呆れが鬼になったみとりは扉を閉めようとするも忍者がそれを止める。
「おっとと、まぁ待て。この事を俺のPTに言ったらよ。自分だけ好きな事にお金使うなんてズルいって言われるから言えねぇんだよ。古明地達に言ってもバラしそうだしな。」
「だからと言って、私に頼るな。私にたy「きゅうりと竹輪。」
あまりのしつこさに能力を使って頼る事を禁止しようとしたみとりだが、忍者の呟きに動きを止める。その反応に彼は、釣れた事に喜ぶかのようにニヤニヤする。
「手伝ってくれたら、竹輪の中にきゅうりを入れる料理をご馳走してもいいんだぜwwwww もちろん、きゅうりは赤河童が育てているやつからだが、もう一つの材料の竹輪は俺が用意するんだから不公平じゃねぇだろwwwww」
「・・・少し待て。すぐに準備する。」
そう言って扉を閉めると同時に顔をニヤつけたみとり。その表情を見逃さなかった忍者は、ちょろいもんだと自分が立てた作戦の一つが成功した事に気持ち悪いぐらいに嬉しそうに笑うのであった。























「オニン、いつになったら着くんだ?」
「後、もうちょっとだ。情報によれば、こっちで合ってるはずだがな・・・」


地上に出た二人は今、草木が多く生い茂った森を歩いていた。天候は曇り。雲の色が暗い灰色と一雨きそうな天色である。


そんな中、みとりは表情を曇らせながら歩く。なぜなら、地上に出てから数十分経つ。ただでさえ、外に出歩くのも嫌なのに、こうも時間がかかるとは思わなかったからだ。
対して、忍者は・・・勇儀から聞いた・・・花見をする場所を思い出しながら、歩いていた・・・・・・みとりが帰ると言わないよう、人や河童もいない絶好の花見場所を・・・・・・・・・そして・・・作戦の再確認をしながら・・・


忍者が考えた作戦は・・・まず、第一前提にみとりがいきなり帰ると言わせない事であった。なぜならそうなったら、そもそもの勇儀の考えていた゛皆で花見をする″という事ができなくなるからだ。そうなれば、最悪竹輪の約束もなくなる可能性がある。
忍者はそれを恐れて、まず考えたのが・・・みとりを地上に誘う口実で・・・・・・思いついたのが゛竹輪の中にキュウリを入れる″料理である。これには忍者はもちろんみとりも好きなため、地上で゛竹輪祭りがあるから、竹輪集めに協力してくれたら料理のご馳走する″と言えば、乗ってくれると彼は思ったのだ。そして・・・計画通りにみとりは動いてくれた。後は勇儀達と待ち合わせをしている花見会場に行き、そこで来るのを待つだけである。・・・厳密に言えば、竹輪を・・・・・・


「ジュルリ・・・」
「・・・・・・オニン。いくら、楽しみとはいえヨダレを垂らすのは正直引くぞ?」
「おっと、つい・・・なwwww」
呆れが鬼になっているみとりに対し、忍者はいやらしく笑いながら腕でヨダレを拭く。
・・・・・・もしここでそんなに嬉しいのかと聞いたら・・・忍者は当たり前だろwwwと言うだろう。それぐらいの勢いがあった。
「お、着いたぞ。」
そんな会話をしながら歩いていると・・・森を抜け、忍者達の視界に先ほどとは違う映像が映る。それは満開に咲き、花びらがヒラヒラと散る桜の木々。今、忍者達の瞳の中には・・・見事な薄桃色の桜吹雪が色鮮やかにあった。
「おっ。こいつは見事だな。星熊も良い所、知ってるじゃねぇか。」
予想を大きく上回ったのか・・・珍しく感嘆の声をあげる忍者。この光景にはさすがに感動したようである。
「それじゃあ、『竹輪祭り』が始まるまで待つか。」
忍者はそう言いながら、みとりの方を見ると・・・すぐに怪訝な表情をする。なぜなら・・・



「・・・どういうつもりだ、オニン・・・・・・」



瞳に怒りが込められ・・・憎いと言わんばかりにみとりは忍者を睨んでいたからだ・・・
「あ?どうしたんだ、赤河童?」
それに対し、なおも疑問を持った表情で平常心が保っているように見える忍者だが、内心は゛花見をやる事に勘付かれたか?″と焦る。だが・・・



「よくも私をこんな所に連れ込んだな・・・」



どうやら、違うようであった。これには、さすがの忍者もみとりの様子がおかしいと思い始め・・・まずは話しかける。
「おい、いきなりd「うるさい!!私の後を追うの禁止!!!」
みとりはそう怒鳴ると、忍者に背を向け走りながら、能力を使う。すると、彼の目の前に標識が置かれ・・・忍者は追おうとするも追えなかった・・・


「なんだってんだよ、おい・・・」




















「はぁ、はぁ、はぁっ・・・」
みとりは必死に走る。何かから逃げるように。通るその場所、その場所から離れるよう必死に・・・・・・
「・・・きゃっ!?」
その時、足がもつれ転んでしまうみとり。急いで立ち上がりまた走ろうと顔を上げた時・・・彼女の視界にポツンとだけども、樹齢何百年と想起させてしまうほどの大きさの一本の桜の木が目に入る。


・・・緑の木々に囲まれた・・・桜・・・


一見、場違いのように見えるが、それでも春を感じさせ、桜の花びらが美しく舞う。
それを見たみとりは・・・憎たらしくその桜をキッと睨みつける。まるで見たくなんかなかったと言うように・・・。そして、立ち上がって走ろうとしたその時・・・
「・・・・・・?」
上から冷たい何かが降ってきた事を感じ、見るとその瞬間・・・サァッと・・・静かに雨が降り始める。しとしとと、しとしとと・・・『春雨』が降る。
雨が降り始めた事によりみとりは雨を凌ごうと慌てて近くの木に入る。そして・・・木に背中を預けるようにもたれるとちょうど前には桜。
それを見たみとりはすぐに睨むも・・・そうしていてもしょうがないと思ったのか、顔を俯かせ・・・ぺたりと腰を地面に落ち着かせ、体育座りをするように座り・・・顔を上げ、雨が降る空を見始める・・・。この雨はまるで私の心を映し出したように静かに降るな・・・と思う・・・



・・・・・・・・・過去の事を思い出しながら・・・・・・









・・・私は・・・・・・桜が大嫌いだ・・・

その木の下に人間達が集まり騒ぐその光景が・・・



・・・私は・・・・・・桜が大嫌いだ・・・


その木の下に河童達が集まり騒ぐその光景が・・・



・・・私は・・・・・・桜なんて大嫌いだ・・・


私を蔑み・・・どちらもその輪に入れてくれない事に・・・









「・・・・・・・・・うっ・・・」
当時の事を思い出していたみとりは・・・その時の辛さをも感じ・・・嗚咽を漏らし始める・・・。


別に桜そのものが嫌いじゃないというのはみとり自身も分かっていた。だが、辛すぎるのだ。昔の事を思い出すから。当時、人間からも河童からも蔑まれた時の事を・・・


「・・・・・・う・・・うぅ・・・・・・」
溢れ出る涙は止まらない。
怒り、辛さ、寂しさ・・・・・・そんな想いが涙となって・・・静かに頬に流れ落ちる・・・・・・その時・・・


「おい。」


突然、前から声をかけられた事にすぐに気付いたみとりは顔を上げると・・・そこには汚い忍者が立っていた。静かにだけども降っていた雨の中で動いていたのか・・・髪と忍者装束は濡れ、その水を滴らせながら・・・。
それを・・・みとりは目を丸くし驚きながら、相手を見る。なぜなら、能力で後を追う事を禁止したからだ。
「オ、オニン・・・・・・一体、どうやって・・・」
「お前の能力のせいで遠回りするハメになっちまったんだよ。後を追っちゃいけねぇってんだから、赤河童の゛通った道″を無視してだいたい赤河童がいる所を予想しながら走っていたら、いきなりの雨!土砂降りじゃなくてまだ春雨だったからいいけどよぉ。おかげで濡れちまったじゃねぇか。」
「・・・私を無視して地底に帰ればよかったじゃないか・・・」
「そんな事をしたら、星熊になにされるか分かったもんじゃねぇ。それに竹輪の約束もあるからな。それが全部ぱあにしちまう非効率は選ばねぇよ。」
忍者はそう言うと、ホント面倒くさかったと言わんばかりに濡れた髪をガジガジと掻く。それをみとりは突然の相手の登場にただ黙って見ている事しかできなかった・・・
「・・・で、いきなりどうしちまったんだ?後を追わせないようにもしてよ。」
「オ、オニンには関係無い事だ。」
「じゃあ、なんで泣いてんだよ?」
「な、泣いてはいない。こ、これはあれだ。雨に濡れたからだ。」
「へぇ、にしても、帽子や服は濡れていないけどなwww」
「うっ・・・・・・そうやって、相手を追い詰めるとは汚いな・・・」
「汚いは誉め言葉だw」
口を尖らせ軽く相手を睨むみとりに対し、忍者はヘラヘラと小馬鹿にするように笑う。すると・・・みとりもつい口元を弛ませ少し笑ってしまう。
「で、何があったんだ?言った方が楽になるぜ?」
「・・・悪いが、言えないな。言ってどうこうなr「桜が原因か?」
突然の指摘に思わずみとりは顔が強張り、忍者を見る。・・・相手は相変わらずのヘラヘラした表情をしていた。
「ビンゴか。まぁ、しつこく聞かなくても桜を見た瞬間、あれだったからな。すぐに分かる事だ。」
そう言う忍者に対し・・・みとりは・・・・・・昔を思い出しているような・・・儚げに口を開く・・・
「・・・オニンは桜は好きか?」
「桜か?好きでもねぇし嫌いでもねぇ。」
「そうか・・・私は嫌いなんだ・・・・・・いや、実際どうなんだろうなぁ・・・よく分からん。」
みとりはそう言った後に・・・立ち上がり、空が見える位置までゆっくりと・・・歩いていく・・・
「私はただあの楽しそうに騒げる『花見』というものを体験したかった。だけど・・・できなかった。人間も河童も私を忌み嫌うから。あの輪に入れなかった。だから・・・いつしか、私は桜を嫌うようになってしまった・・・」
サァッと静かに降り続ける雨。それはまるでみとりのその時の悲しみを・・・代わりに泣くように降り続ける。しとしとと・・・しとしとと・・・・・・静かに・・・
「・・・まぁ、要するに桜関係で嫌な事があったから桜の事が嫌いになっちまったんだな。」
すると・・・後ろの方の頭をボリボリと掻きながら・・・忍者は何を言おうか迷いつつも話しかける。対して、みとりは空を見ながらじっと動かず・・・それを見た忍者は構わずに話しかけ続ける。
「だったらよぅ・・・・・・」



「自分の好きな奴と花見やればいいんじゃねぇか?」



「えっ?」
思わず目を見開き驚きながら振り向くみとりに対し、忍者は真面目な・・・普段見せない表情をしていた。
「要するに、その時の人間や河童がお前の事を嫌って、お前もそれが嫌だったんだろ?じゃあ、無理してそいつらの輪に入らなくてもいいじゃねぇか、アホらし。PT組む時もそうだけどよ。自分と合う奴と組まねぇと何するしても楽しくねぇんだよ。冒険も闘いもその花見とかもよぅ。だから、自分の好きな奴と花見やればいいんじゃねぇか?それをすりゃあ、桜も好きになれると思うぜ?まぁ、多分だがな。」
そうボリボリと頭を掻き、最後はいつもの彼らしくめんどくさそうに言う。・・・おそらく、心の中でらしくない事を言ったなと思っているんだろう。
それを受けたみとりは・・・なぜだか分からないが、心が軽くなるのを感じ・・・同時に暖かくなっていく感覚を覚える・・・
「おっ、雨があがってくぞ。」
そう空を見上げながら言う忍者につられてみとりも見ると・・・雲が潮を引くように引いていき・・・太陽を覗かせ・・・最後は青空と日光と・・・桜散る花びらが見える・・・・・・・・・その時・・・
「おーい!!」
「ん?・・・・・・ありゃあ、星熊達じゃねえか。こりゃ、ちょうど良かったな。」
そう言って、嬉しそうな笑みをみとりに見せる忍者。竹輪がすぐに食べれると言わんばかりに。
「どうしたんだい、忍者?集合場所はここじゃないよ?」
「いやな、ちょっと雨宿りにここにいただけだ。それより、花見ここにしねぇか?ちょうど、桜もあることだしよ。」
近付いてくる勇儀達に忍者はそう言うと・・・相手は周りを見始める。桜が一本だけで、他は全部緑の葉を持った木だけである。
「ここ、桜一本だけじゃないかい。」
「そこがいいんだよ。桜を完全に独占できていいじゃねぇか。他に人も来ないと思うしよ。それに、俺は花より竹輪だwww」
「ったく、あんたは竹輪しか考えていないのかい。」
「まぁまぁ、勇儀さん。よろしいじゃないですか。私は隠れ家的な感じで良いと思いますよ。それに・・・もう一人の人もここが良いと思っているようですしね。」
さとりは勇儀を宥めながら・・・最後にチラッとみとりを見る。その視線を感じた相手はつい・・・心を隠すように腕を組む。
「う〜ん、さとりがそう言うなら仕方ないねぇ。それじゃあ、ここで花見をしようかね。そうと決まったら、忍者!みとり!早く来な!!」
ここで花見をすると決まったら、勇儀が二人に早く来るよう手を振る。それを見た忍者は竹輪目的で行こうとするも、途中で立ち止まる。なぜなら、みとりが呆然と立ち止まっているからだ。
「おい、どうしたんだ、赤河童。早く来いよ。じゃねぇと、おめぇの分の竹輪きゅうりも食べちまうぞwww」
「あ、あぁ・・・」
頬を上げ、汚らしく笑う忍者の声に我に帰るみとり。そして、彼女は・・・じっと、目を離さないように桜を見る。
瞳の中には・・・嫌いだった桜が映る。でも、今では・・・理由が嫌な思い出があったからであって、それに気付くと・・・・・・桜の事はそんなに嫌いでもないと、ふと感じる。むしろ、綺麗で・・・あの下で皆と一緒にいたいとみとりはずっと思っていたような感覚を覚えていた。
「おーい、早く来なよ!!」


手を振り続ける勇儀。
パルスィ達が着々と準備を進め、それを見守るさとり。
そして・・・みとりが来るのを待つ忍者。


その背景に桜があるという光景を目に映しながら・・・無表情であった顔は口元を緩ませ笑みを見せ・・・・・・みとりは皆の下に駆け出していく・・・桜舞い散る中にいる皆の元に・・・



あきゅろす。
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