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◎呼ぶ声…、そして──…◎
 


「菫さんッッ!?」



いくつもいくつも覗き込んだ路地――――



二桁を軽く回った頃、漸く菫の姿を見つけられた。



しかし、定信が望み願っていた姿ではなく、予感懸念していた菫の姿に悲鳴に近い叫びをあげた。




朦朧とした瞳

晴れ上がった頬

脱力しきった身体




そして何より――…



「――っやろぅ!!」


何かが切れた感じがした。

そして気が付けば、定信は菫に食って掛かっていた男を殴り飛ばしていた。





 **** 




「…………」


菫を捜して出て大分たった頃、何の収穫も得られなかった定信は、一度水木に連絡を入れようと別れた場所に戻ってきて唖然とした。



(……何だ、この人だかり………?)



遠くからでも見える自家の馬車を中心に、軽く人だかりが出来ている―――


馬車が見えるのだから御者(代役)の水木もいるはずで…………



「……………」


大丈夫かなぁと、走り回ったおかげで少しは落ち着いてきた定信は思った。


何をどうして、どうなったらこんな事になるのかサッパリ分からない。


とりあえず、気が引けたのだが中心で待っているであろう水木の元へ人込みを分けて向かう―――



――――――が、


(…水木……じゃない。)


辿り着いてみると、そこに立ち尽くしていたのは、オロオロと困惑―――もしくは、ひどく狼狽えている見知らぬ中年男性で―――…



どうしよう……。と、飽きれを含んで打開策? に首を傾げていると、ガシッと背後から肩を捕まれた。


「――っ!?」

「定信っ――様…」


打開策を講じる前に、目的から定信の視界入ってきた


「あぁ、水木。よかった見つかって―――」

「話は道すがら。来てくださいっ。」


体面を気にして敬語を使っていたが、行動は反対だった。

水木を見つけた事に安堵していた定信を、急かして腕を引っ張っていく―――


人込みを無理矢理突っ込んで行くものだから、取り囲んでいる人々に当たりまくりだ。


「あっ、あっ、旦那!? 急用は終わったんですか!!?」


人々に打つかってちょっとした騒ぎになっていた水木をみて、馬車番をしている男が肩の荷を下ろした様に安堵の顔で水木に言う。


「まだだ! 謝礼は必ずする! 動くなよ!」


キッパリと斬って捨てた言葉に、定信は馬車番をしていた男が『巻き込まれた運悪通行人その1』なのだと悟った。


「そんなぁ〜」と、明らかに落胆する声を聞きながら定信は、内心男に謝罪を述べ、珍しく焦っている水木と共に人だかりを後にした。





 **** 




『昨晩の客人を見つけた。』


定信は、先程水木の口から出た言葉を走りながら思い出していた。



『だが、すぐに変な男に無理矢理連れていかれてしまった。』


水木の焦りが、徐々に定信にも移る――――


悪い予感が当ってしまった気がした。


『すぐに追い掛けたんだが、途中で見失って――引き返した。』


水木の言う通りなら、水木が往復した時間がすでに経過している事になる……。


『――ここだ。ここで見失った。』


水木は足を止めたが、定信は止めない――――


『俺は、警官隊を呼んでくる! 何かあれば叫べよ!』


走り去る定信の背中に、水木はそう叫んで別の方向へと走りだした―――……







そう…

それが、十分前――…




水木の往復の時間も、十分程度だったはずだ。


片道約5分を3回、捜し始めて約5分




二十分程度しかたってないはず………





だが………





菫の姿を見た定信は―――




『時間をかけ過ぎた』と、悔やまずにはいられなかった………。





 **** 




――――ガシャーン


定信に殴られた男は、木箱を巻き込んで盛大に飛んでいた。



そのまま吹き飛んで倒れた男の胸ぐらを掴み、振り上げた手で再度殴る。




軽く呻き声をあげてグッタリしている男に、定信はまた拳を上げて―――


「ヤメロッ!!」



制止の声と共に振り上げた手が捕まれた。


「お前は何しに来たんだ!? 殴る為じゃないだろ! さっさと、彼女の容体を確かめろっ!!」


掴んだ相手を見れば、警官隊を呼びに行くと言っていた水木で、容赦のない言葉が降り注ぐ―――



そこでようやく定信は我に返り、グッタリと壁にもたれ掛けられている菫に駆け寄った。



瞳を閉ざし、意識を手放していた…。

晴れ上がった頬に、何回も殴られた事が分かる…。

くたびれた着物に、別れた後の菫が見て取れる……。



(……何でもっと早く…)


悔やんでも悔やんでも、悔やみ切れない。
自分の愚かさを呪った。


―――女性一人を街に出す事を甘く見過ぎていた。





晴れ上がった頬に、そっと手を触れた………。


普段から定信の指は冷えきっている為、熱をもっているであろう菫の頬を少しでも冷やせればと思って手を伸ばす。



壊れモノを扱うかの様に、触れていく――――



やはり、菫の頬は熱をもっていた……が、



(…――息が浅い――っ!?)


頬に触れている事で、呼吸の振動が伝わってきた。


浅く短い息が、不安を煽り


頬が熱いのは、殴られたせいだけではないのかもしれない―――…。



(は、早く屋敷に帰らないと――っ)


焦り始めた定信は、気をだいぶ注いで、優しく頬に触れていた手に力を入れてしまっていた。



「…ん――…」



菫が、小さく身動ぎをしてゆっくり…ゆっくりと、閉ざしていた瞳を開いていった―――――


「…………菫さん。」


恐る恐る、定信は名を呼んだ。


駆け付けた時に見た、菫の『すべてを捨ててしまったような瞳』が恐い―…


もし…

もし、あの瞳を目覚めた菫がしていたら―――と、ゾッとした。



しかし、定信の声に虚ろのまま菫は微笑している……

つられるように、定信もホッと軽く肩の力を抜いた。大丈夫そうだと、肩を撫で下ろしてしまった………。

だから……

余計に辛くなったのかもしれない……………。





菫の決死の思いで紡いだ言葉の、『本当の意味』を正確に感じ取っていたから………



…………辛いのかもしれない――――。




その菫の言葉が、定信には―――






「………ありがとう……、定信……さ…ま………」








―――――『さよなら』
と、聞こえた……。




 終  H19.5.12
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長っ!? ( ̄□ ̄;)!!
短文になってないじゃん(力不足)

それにしても、水木早っ!? 
きっと、交番が近かったんですよ(オィ)それか、呼んだが先に一人で駆け付けちゃっ?
どっちだっっ!?(イイ加減ニシロ)
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