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幻想
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「そうだ、ラビィ」

ラビィが準備してくれたお茶を庭先で頂きながら、ふと先程の疑問が再度湧き上がった。
後宮で働いてきたラビィならば、何か正妃様の容態について知っているかもしれない。

「正妃様の容態はどうなのだろうか」

「……突然、どうしてそのようなことを」

私の言葉に、ラビィの瞳に動揺の色が走る。もしかしたら、あまり状況は芳しくないということなのだろうか。

「ここに来てからも全く話を聞かないし、正妃様が病床につかれてからもう大分経つだろう?」

正妃様が病床につかれたのはここ最近の話しという訳ではない。もう年単位の筈だ。
国民に話が行かないのは仕方ないかもしれないが、王宮内の後宮で、全く話が回ってこないのは有り得ない。

「……ラウル様」

私を見るラビィの顔が強張っていた。声にも、緊張の色が見える。

「ここで、正妃様のことを口にしてはなりません。特に陛下の前で、正妃様のことについて触れては決してなりません」

有無をも言わさぬラビィの迫力に、私はたじろいだ。
しかしその内容は到底納得できるようなものでは無かった。
一国の王の妃なのだぞ。正妃の話がタブーであるなんて、そんな馬鹿な話ある訳が無い。

………やはり、病状が芳しくないということか。
だから、皆一様にヨルダン様に気を遣って口にしないということなのだろうか。

「それはそうと、ラウル様。アナスタシア様の侍女より、文が届けられております」

三度の不審な届け物のせいで、差出人の分からない荷物は受け取らないこととなっている。今回のものはアナスタシア様名義で届けられた手紙であるため、大丈夫だろう。
ラビィから手紙を受け取り、中身を拝見するとそこには私の心身を労わった言葉が認められていた。きっと茶会にも出なくなった私を心配して、気遣って下さったのだろう。
そんなアナスタシア様の御優しい心が私の心に染み入った。





後宮で日々を過ごす妾后が、後宮の外に出る機会が実は年に数回ほどある。

「ラウル様、御召し物はどういたしましょう」

その内の一回がヨルダン様の誕生式典の夜会だ。
そこには国内外から賓客がもてなされる。国外からは王族が、国内からは国中の貴族が参加し、大層華やかな社交の場となる。普段は後宮での生活を強いられる妾后たちも、この日は後宮を出て、王宮内で行われる夜会に参加することとなる。

「こういうことには疎くて……ラビィが決めてくれ」

“妾后たちは夜会を彩る花。各々が煌びやかに着飾り、出席者の皆様の御目を楽しませなければなりません”
ラビィがそんなことを言ってきたが、正直全く興味が無い。
男の私が着飾ったところで、たかが知れているし、他の多くの妾后たちが着飾るのだ。私がそれをする必要も無いだろう。

「畏まりました。ラウル様に似合うだろう衣装を選ばせていただきます」

「ありがとう」

「………どういたしまして」

私の感謝の言葉に、はにかんで応えてくれるようになったラビィに、私の胸は温かくなった。




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