現代
22
「………………」
俺の作品の前で、かれこれ五分は無言で作品を見ている美琴。
その隣で、何を言えずに気恥ずかしさから視線を泳がす俺。
その周りを囲う多くの観覧者たち。
なんでこんな一つ別格扱いされた部屋に飾られているのだろう。
いや、その意味は何となく分かるが。
あまりに妖艶で、艶かしいその写真は、他の作品と同じ空間に飾ることが躊躇われたのだろう。それにしても、針の筵のような心地である。
「………行こうか」
それから更に十分して、漸く俺は美琴のお許しを得て、この場を離れることに成功した。
漸く一心地着くことができると安心しきった気持ちで、その後の作品に目を向ける俺だったが、直ぐに美琴の様子がどこかおかしいことに気付いた。
いつももあまり喋る方ではないが、いつにも増して、押し黙っている気がする。
表情もどこか暗く、何かをじっと考えているようなそんな素振りをしている。一体何があったのだろうかと気になるが、美術館の中で聞くのも憚られる。取り敢えずは、美術館を出てからだと息巻いてみたものの、美琴の纏う空気は美術館を出てから益々と暗く、重くなっていった。とてもじゃないが、俺から話掛けれる雰囲気ではない。
「…………馨」
取り敢えず、宛先も分からず美琴の進むまま着いていった俺は、気が付けば町はずれの公園までやってきていた。そこで歩みを止めた美琴が、静かな声で俺に話し掛けてきた。
「別れましょう」
たったの五文字の言葉が俺の胸を引き裂いた。
「どうして、だ」
その言葉を告げた美琴の声の力強さに、その意思の強さを悟った。
これは駆け引きで出た言葉などではなく、本心から出た言葉なのだと。
「馨の心の中にいるのは私じゃない」
「……言っている意味がよく分からない」
美琴は俺から目を反らすことなく、一字一字丁寧に喋った。
この短期間で、何が彼女にその決意を持たせたのか俺には分からなかった。
昨日までは普通だった。普通に、恋人同士だった筈だ。それなのに、何故、突然こんな別れ話。
「私じゃ、馨はあの作品は作れなかった」
それが答え。そう美琴は俺に告げた。
日が暮れて、星が空で輝きを増していった。
誰もいない公園で、俺は一人ブランコに腰掛けていた。
とてもじゃないが、立ち上がって帰る気にならなかった。
美琴と付き合って半年過ぎていた。
それなのに、終わりはなんてあっという間で、呆気ない。
「……………」
“私じゃ、馨はあの作品は作れなかった”
そんな意味の分からない理由で、まさか別れることになるなんて。
俺が悪いのか?俺があの写真を撮ったから別れる羽目になったのか?
………違う。別に美琴は嫉妬していた訳じゃなかった。希美とは違う。
自称宇宙人に対して何かを感じていた訳じゃない。
それなら、何故………。
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