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現代
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幸運にもそこから虐めに発展することはなかった。多分、当時の俺の身体が、中学生にしては大きかったからかもしれない。学年でも一、二を争うほど身長が高く、誰よりも早く声変わりをして、同学の男子生徒より一足先に大人っぽい雰囲気を獲得していた。

そんな俺の友人だ、ということで自称宇宙人にも虐めの手が伸びることがなかった。まあ、自称宇宙人だったら、喩え自分が虐められたとしても全く気にしなかっただろうが。

こういった背景で、すっかり変人コンビというレッテルを貼られた俺たちは、翌年の中学二年からずっと同じクラスになった。恐らく教師の計らいなのだろう。

俺にとっては嬉しい対応だったが、自称宇宙人にとってはただ、煩い奴が一日中隣にいて煩わしいななんて思ってそうだな、とこの時の俺は、自分の喜びぶりを自重するよう苦笑を浮かべた。

学年で孤立している二人が傍目に仲が良いから一緒のクラスにしてやろうなんていう教師からの心遣いを感謝して中学二年の春を過ごしていた頃。

俺はそれが、教師の心遣いなどでは全く無かったことに気付いた。




「戸野部君、ちょっと……」

ある日の放課後、俺は突然担任に呼ばれた。俺たちの担任は二年前に教師になったばかりで、今年初めてクラスを持ったという新米教師だった。
まだまだひよっ子ということが生徒の間にも伝わっていて、自分より一回り近く年下の生徒にも舐められている、どこかなよなよとして全く頼りにならなかった。

「実はちょっと聞きたいことがあるんだけど………」

そんな担任が突然俺に何の用だろうと、最近の自分の素行を思い出していると、そんなことをこそこそと耳元で囁いてきた。

法に触れるようなこともしてないし、学内でも何の問題も起こしてないのに一体自分に何を聞きたいのだろうかと思っていたら、耳を疑う言葉が担任から発せられた。

「あの、館向君のこと何だけど……」

館向…………?

なんでわざわざ俺を呼び出しておいて、館向ーーー自称宇宙人のことを聞くのだろうか。

「呼んできましょうか?今ならまだ間に合うかもしれない」

基本的に放課後直ぐに自称宇宙人は下校してしまう。今日も修礼が終わって直ぐに鞄を持って教室を出ていっていた。もしかしたら、追い掛ければまだ間に合うかもしれない。

残っていたからという理由だけで、何も俺に言わなくても大丈夫だと暗に伝えたつもりだった。しかし担任の思考は俺の斜め上をいっていた。

「いや、それは……。できれば戸野部君の口から館向君に伝えてくれないかな」

何故?と俺は正直に思ったことを担任に聞いていた。

「ほら、だって館向君って僕の言うことに全く耳を傾けてくれないし、戸野部君の言うことなら聞いてくれるでしょ?」

どの口でそんな情けないことを言っているんだ、この教師は。本気で大丈夫か、この大人はーーーなんて心配になってしまった。

でも担任がそう思うのも仕方がない。

本当に自称宇宙人は担任の言うことーーー教師の言うことに全く耳を傾けなかったから。
小学生の頃からそうだったが、自称宇宙人は生徒だけではなく、教師に対してまでもいつものスルースキルを発動させていた。どんなに注意されても、どんなに怒られても口を利くのも嫌と、話にならない。

そんな自称宇宙人が、教師の中で扱いに困った問題の生徒だと認識されていても仕方がなかった。

つまり、だ。俺が感謝していた教師の心遣いなんてものは、他人任せの打算を孕んだ無責任な結果でしかなかったのだ。俺は自称宇宙人のメッセンジャーとして選ばれただけなのだ。

後で知ったのだが、この担任は新任という弱い立場から自称宇宙人という大きなお荷物を押し付けられたらしい。自称宇宙人の扱いは、どんなベテラン教師であっても手を焼くもので、わざわざ好き好んでそんな生徒の担任を引き受ける人など誰もいなかったのだ。

押し付け合いという会議の結果、この担任が犠牲になったのだ。




こうして、俺は中学も二年にして、自分の役目を正確に理解した。





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あきゅろす。
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