現代
1
俺がそいつと出会ったのは、俺が小学六年生の時だった。俺がそいつの通う小学校に転校してきたのが始まりだった。その当時俺は、親の仕事の都合で日本各地を転々としていた。所謂転勤族というやつだ。
転校生の性か、同年代のやつらより圧倒的にコミュニケーション力が高く、どこに行っても誰とでも直ぐに仲良くなれるのが当時の俺の自慢だった。
小学六年生も残るところ後数ヶ月という時期に転校してきた俺だったが、直ぐにクラスに馴染むことができた。転校生が珍しいのか、クラスメイトも挙って俺の回りに集まった。田舎の学校にとって転校生というだけで、一大ニュースだったのだろう。直ぐにみんなの人気者になれた。しかしそんなことも、万年転校生の俺にとっては慣れたものだった。こんなにモテ囃されるのも今だけで、直ぐにみんな飽きていくだろう。そんな風にどこか達観して、同い年の生徒たちを見ていた。
そう、当時の俺はどこか摩れた小学生だった。
例え俺が摩れていたとしても、当時の俺は処世術というものを十分理解していた。物珍しさに集るクラスメイトに良い顔しては、みんなで仲良くやりましょうというスタンスを崩さなかった。
どうせまた引っ越すことになるのだから、だったらこの瞬間だけでもみんなで楽しめたら良いじゃないか。それが当時の俺のモットーだった。
そいつと出会ったのはそんな時。
そいつは同じクラスで唯一、俺の転校生というステータスにも騒がず、一人詰まらなそうな顔をしてぼおっと席に座っていた。
あまりの回りとのギャップに驚いたことを覚えている。
何故、こいつはこんな顔をして、みんなに交ざらず詰まらなそうにしているのだろう。気になって仕方がなかった俺は、そいつに近付いてみることにした。
「止めときなよ」
しかしそうしようとした俺に、みんなが一様に口を揃えて制止の言葉をかけてきた。困惑な顔をするものや、厳しい顔をするもの様々だった。
みんなの反応に内心憤りを覚えた。
イジメられてる!なんて勝手なことを思ったのを覚えている。事実は全く異なっていて、ただそいつの異常性にみんなが困惑していただけだったのだが。
まあ、だとしても腫れ物を扱うような扱いは一種のイジメと分類しても良かったのかもしれない。
そんなみんなの態度に辟易しながら、俺は制止を振り切ってそいつに話し掛けた。
「やあ」
「………………」
明らかに自分に向かって話し掛けていることが分かるだろうに、そいつは何の返事もしなかった。この時点で内心変なやつと思ったものの、再び声をかけた。
「こんにちは」
予想できたと思うが、勿論これにも返事は返ってこない。ここまで行くと、俺も何とかこいつに返事をさせてやると維持になってくる。
奮闘の末、漸く返ってきたのはたった四文字の言葉だった。
「うるさい」
その内容よりも返事をした事実に俺は驚きを隠せなかった。いかに俺が維持になって声をかけ続けても、返ってこないだろうと薄々結論付けていた矢先のことだったからだ。
そのため、この驚きは直ぐに喜びに変わった。もっとこいつに喋らせたい、そう考えたのだ。
しかし俺の願いは虚しく、始業の鐘が鳴り、席に戻らなければならなくなってしまった。後ろ髪引く思いで俺が席に戻る間、そいつはずっと変わらない能面のまま椅子に座り続けていた。
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