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現代
6





「いつか舘縞君を連れてきてちょうだい」

「え?」

その言葉はぽつりと呟かれた。
葵は思い詰めたような美奈な顔を咄嗟に窺い見た。すると美奈は直ぐに誤魔化すように顔色を変え、言い繕った。

「葵と並べてみたいなーなんて。さぞかしそっくりなんでしょうね」

打って変わって陽気な姿を見せる美奈に葵は先程の姿は気のせいだったのだろうと、笑ってみせた。

「そりゃあ!でもあいつ、愛想悪いからなー……」

連れてくる程まで仲を発展させるのは骨が折れそうだと千景の姿を脳裏に浮かべながら苦笑いをした。
それに美奈は興味津々といったように質問を重ねる。葵はその一つ一つに答えながら、美奈のこんな嬉しそうな顔を見たのは久し振りのような気がして自分も嬉しくなった。

「まあ頑張るけどさ」

明日からまた頑張るかと葵は、食べ終わった食器を綺麗に重ねて台所へ運んだ。





翌日、朝からテストで昼になった頃にはもう葵は疲れきっていた。高校に入学したばかりだと言うのにもうテストとは、と泣きたくなったが進学校の悲しい性だと葵は自分の高校選択を見誤ったことを後悔した。
午前中に国語と数学の二教科を終え、残るは英語だけとなり漸く終わりが見えてきたテストは、彼らが受けてきた入学試験よりも難解なもので、新入生は洗礼を受けることとなった。
それにより昼食の時間は空気がズンと沈んだものだった。別段自身の能力に自負を抱いていた訳ではない葵は、周りの異様な空気にある意味圧倒されながらも、隣で飄々と食事をしている千景に視線を送った。
彼はこの教室で一人浮いているようだった。彼にとっては今日のテストも腕ならしにすらならなかったのだろう。余裕綽々に数学の参考書を開いている。

「あれ?舘縞コンビニ?」

「昼食がコンビニの物かという意味では肯定だ」

他にどんな意味がと葵は思ったが敢えて突っ込むことはせず、会話を続けた。

「なんか意外だな。弁当な感じがしたんだけど」

「そうか」

僅か数日の、しかもただのクラスメートという関係であったがなんとなく葵にそう思わせた。千景がコンビニで何かを買う姿が思い浮かばないだけというのもあったが。
葵の勝手な偏見を気にする素振りを見せずに淡々と机に向かっている。まるで手応えのない感じに一体どうしようかと思案に耽っていると昼休みの終了のベルが鳴った。慌てて葵、弁当を片付けてテストに備えた。





午前のテストに比べれば幾分かマシに思えた英語のテストだったが、何分量が多すぎた。最後まで解けきれずに回収される自分の答案用紙に、葵は悲壮感に見回れたがこればかりは仕方がない。黙って見送るしかなかった。
ちらっと隣を見てみるとやはり顔色一つ変えないで余裕でいる千景がいた。そんな千景の姿に、こいつの慌てる姿を見てみたいものだと密かに思い、次の瞬間には絶対ないなと否定した。
たったの三教科のテストだったから恐らく明日には結果が返却されるだろう。鬱々な気持ちで、葵は自分の席に沈んだ。

テスト監督の教師から良しの声が上がると、教室は騒がしくなった。皆口々に今日のテストの出来を確認しあっていた。互いに手の内を明かさずに、情報を収集する様は浅ましいものであった。
葵は暫し机に沈没した後、不意に身体を起こした。そして隣の席を見た後、立ち上がり荷物を持たずに教室から飛び出した。
廊下には、帰路に着こうとしている生徒で溢れていた。葵は小さく舌打ちをして、渋々と教室へ戻っていった。


(ちくしょー舘縞の奴早すぎ)

何とか舘縞と接点を持ちたかったのだが、彼は既に帰ってしまっていた。葵は一人自分の行動を悔いて、帰り支度を始めた。

「西条と舘縞って実は血が繋がってたりするのか?」

声の主は葵の前の席の男子生徒だった。

「違うって」

「でも本当に似てるよな」

「瓜二つだよね」

気付けば葵の周りに生徒が集まってきていた。実は皆、全く同じ顔を持つ姓の違う二人のことを聞きたくて仕方がなかったのだ。しかし千景の出す気に圧倒されて滅多なことを言い出すことが出来ずにいたのだ。葵は千景に比べれば人当たりの良さそうな感じだった為、千景が帰った教室で皆葵に群がっているのだ。

「世の中には自分と同じ顔の人間が三人いるって言うしな」

「それにしても似すぎだろ」

確かにと一同が頷いた。
そのままの流れで誘われるまま葵は数人とカラオケに行き、クラスメートと友好を深めあった。各自二度目となる自己紹介をし、メールアドレスを交換しあった。







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あきゅろす。
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