現代 17 「俺にアイツが説得できると思うのか!?」 「そこ自信満々に言わないで下さいよ!」 最早開き直ったかのように堂々と情けないことを口にする担任に、思わずツッコんでしまう。大人なんだから、もっと大人の威厳で何とかして下さい。 「俺にT大なんて無理ですよ。舘向なら余裕でしょうが」 「大丈夫、書くだけで良いから。本当に目指す必要はないから!」 自分がとても酷い扱いをされている気がする。これが大人の汚い世界という奴か。 あまりの担任の必死な形相に、俺は仕方なくこの交渉を飲むことになってしまった。 解放された頃には、辺りはすっかり薄暗闇になっていた。俺はとぼとぼと帰路に着き、部屋へ帰ってきた。そこには相変わらずな自称宇宙人の姿がいた。 「…………」 「…………?」 何も言わずにじっと見つめる俺に、漸く自称宇宙人は視線を本から俺へと移した。 その邪気のない視線に、俺はすっかり脱力してしまった。 こうして俺たちは高校も二年生へと進級した。 二年になっても相変わらず俺たちは同じクラスだった―――とはならなかった。 何故ならば、俺は特進文系クラスで、自称宇宙人は特進理系クラスになったのだ。どうやら文系・理系の希望を書かなかった自称宇宙人は教師の独断と偏見で理系に振り分けられたらしい(実際自称宇宙人の理系センスは並大抵のものではなかったが) 同じT大という扱いであっても文系・理系が異なれば同じクラスになることはない。 ……って、まさか俺まで特進クラスになるとは思わなかった。あの用紙にT大と書いたのも自称宇宙人をT大希望扱いにするための策略であって、俺は俺で最初に提出した大学が進路に適用されると思っていた。それなのに、まさか俺までT大希望者の扱いになるなんて。すっかり騙された。 しかしながら、仮にも進学校。進路にT大希望と書いたからって全員が全員特進クラスに入れる訳ではない。クラス分けには一年時の成績も考慮される。つまり俺が特進クラスになったということは、教師の中で“進学可能圏内”と判断されたのだろう。それはそれで光栄なことだ。だが現実問題、特進クラスでありながらバイト生活は辛いものがある。 だがその問題も直ぐに解消されることになった。 と言うのも、進級して直ぐに行われた三者面談でのことだ。 「戸野部君は頑張れば、T大も目指せる成績だと私は思っております」 二年になると、落ち着いた雰囲気の四十代の女性教師が担任になった。古参の教師のようで、母も一目で信用できる人物と判断したようだ。 「ただ、それにはあくまで“頑張れば”という条件がつきますが」 「と、言いますと……?」 息子がT大に合格できるかもしれない、という話を担任から聞かされた母は、目を輝かせて話に夢中になっていた。教育ママという訳ではなかったのに、T大という言葉はかくも偉大ということか。 「現在、戸野部君は高校生ながらアルバイトと勉強を両立して頑張っています。ただ、T大を目指すとなると、流石に今のままでは難しいです。アルバイトに費やしている時間を勉強にシフトしてあげる必要があります」 要約すると、アルバイトを辞めて勉強に専念しろということだろう。 アルバイトをライフワークとして受け入れてしまっている俺にとっては願い下げの提案だった。そもそも俺は別にT大を希望している訳ではなかったのだ。今の状態で無理なく入れる大学を選んだ筈だったのだ。それだというのに、一年時の担任のせいで……。 「それなら、私たちも頑張ります」 そんな恨み事を考えていると、横で陽気な母の声が聞こえた。 [*前へ][次へ#] |