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現代
8





そんな俺が、彼女を追い掛けたところで、何も言う言葉が無い。
俺は、すっかり匙を投げたくなっていた。
希美の考えが全く分からない。

俺は、自分の部屋に戻っていた。
取り敢えず、考える時間が欲しかった。

「…………ただいま」

部屋に帰ると、いつも通り、自称宇宙人がくったりしていた。
一応部屋に冷房はあるものの、電気代を気遣ってつけないようにしているらしい。
それなら窓の一つでも開ければ良いものの、と思いながら蒸し風呂のようになった部屋に足を踏み入れる。自分の手で窓を全開にし、空気の入れ替えをする。そうでもしないとこんな部屋にいられない。

窓を開けると、新鮮な空気が部屋に入り込んできた。夕方の少し、暑さの和らいだ風が部屋の中に入り込む。これで少しは人が生きられるような環境になっただろう。
それにしても、自称宇宙人はこんな状況の部屋に毎日ずっといたのだろうか……?明日からは、ちゃんと窓を開けるように言っておかなければ。

………なんて、俺は何を緊張感の無いことを考えているのだろう。希美と別れてからまだ一時間も経っていないのに。考えをまとめて、ちゃんと希美にフォローをしておかなければならないのに。

「はい」

「…………」

何、俺はいつも通り、冷蔵庫からお茶を出して自称宇宙人に振る舞っているのだろう。
そして、何で自称宇宙人はそれをさも当たり前のように、受け取って飲んでいるのだろうか。ついさっき俺が修羅場を体験してきたというのに。

「…………なに?」

俺の不穏な視線に気付いたのか、グラスに口付けながら、自称宇宙人が流し目でこちらを見てきた。
そのいつもと全く変わらない自称宇宙人の姿に、俺は深く脱力した。

その後、結局俺は希美とのことを深く考えずに過ごしてしまった。
それに気付いたのは、夜寝る前だった。いつもなら、希美からメールの一通でも入っていそうな時間、何のアクションも起こさない携帯に、昼間の出来事を思い出したのだ。時刻は21時を回っており、今から希美に連絡しても次の日に支障が出てしまう。
どうせ、学校に行けば会えるのだ。
そんな能天気なことを思い、俺は就寝を迎えた。

その甘い考えが、翌日のあの惨状を引き起こすことになる。





次の日、学校に登校すると、朝だと言うのに校舎の中がガヤガヤと騒々しかった。
不思議に思いながらも教室に向かうと、奇しくも騒音の中心へと近付いているようだった。
教室前に着くと、そこには人だかりができていた。

「何かあったのか?」

教室のドアの前で身を乗り出して中を見ているクラスの男子に声を掛けてみると、そいつは俺の顔を見て、救世主が来た!と叫び、俺を教室内に押しやった。一体、何がどうしたんだと思うと、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「それ、馨君の部屋の鍵なんでしょ!?返してよ!それは私がもらう筈だったんだから!!」

「…………希美…?」

それは、希美の声だった。昨日と同様の、あのお淑やかな希美からは想像も付かないやけに甲高い声だった。それだけでも驚くに値したが、更に俺を驚かせたのは、もう一人の存在だった。
―――希美の視線の先には自称宇宙人の姿もあったのだ。






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あきゅろす。
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