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現代
6





その時、俺の思考を遮るように大きな音が聞こえた。

「………お腹すいた…」

音の主は、自称宇宙人の腹の虫だったようだ。俺はこの状況で能天気にお腹を慣らす自称宇宙人に、苦笑を浮かべ、取り敢えず部屋へ通すことにした。――俺もアルバイト終わり、お腹がへっていた所だったし。

そう言えば、一つ誤解の無いよう言っておかなければならないことがある。
いつも俺が手料理を自称宇宙人に振る舞ってはいるが、別段料理が上手いという訳ではない。寧ろ、残念な部類に入るだろう。それでもなお、俺が作っているのは、自称宇宙人に料理を作らせるよりはましだからだ。

時間も時間だし、今日はさっと素麺を茹でるだけにした。これなら料理の上手下手なく、誰でも均等に美味しいものができる。ただ、高校男子にとっては腹の足しにあまりならなく、経済的ではないことが玉に瑕だ。

一袋分を茹で、麺つゆでするっと素麺を食べ尽くした俺たちは、漸く一心地着いた。

「俺がアルバイト終わるまで、ずっとコンビニで待っていたのか?」

腹ごしらえも済んだところで、本題に戻ることにする。

部屋の前にいなかったものだから、自分の家に帰ったのだとばかり思っていたが、まさかコンビニにいたとは……。俺の言ったことを実行している辺り、従順というか何というか……。
俺の質問にこくりと首を縦に振る。肯定の合図だ。

「何時間も、変に思われなかったか?」

「知らない」

そりゃ、そうか。
自称宇宙人のことだ。周りが何と言ったところで聞き耳持たなかっただろうし、気にしなかっただろう。しかし確実に店の主は不審に思ったに違いない。今日だけならまだ良いが、もしこの先も今日のようにずっとコンビニで待ち続けていると、確実に不審者扱いされてしまう。しかも、うちの学校の制服姿でだから始末に負えない。学校に苦情でも入れられたら堪ったもんじゃない。

「俺がアルバイトの日くらい、真っ直ぐ家に帰ったらどうだ」

切実にそうしてくれないだろうかと思ったものの、自称宇宙人から返事が戻ってくることは無かった。気の乗らない提案だったようだ。こうなったら梃子でも聞かないだろうことは経験則からも把握している俺は、ただ溜息を深くするしかなかった。

その次の休日、俺は自称宇宙人のために部屋の合鍵を作ることを決意した。

正直、合鍵を作る製作費用が懐に大きな打撃を与えたが、次の給料日まで質素な生活をすれば何とかなるだろう。取り敢えず、これさえあれば俺がいない時でも自称宇宙人が勝手に部屋に入ることができる。コンビニで長時間待つ必要も無くなる。

それにしても、何であそこまで自称宇宙人は頑なに家に帰りたくないのだろうか。

俺の部屋に入り浸るようになったのは、俺が一人暮らしするようになってからだし、小学校や中学校の頃は普通に家に帰っていた筈だ。実家よりも、俺の部屋の方が好きなのだろうか……?この狭い六畳一間が……?

「部屋の外で待っていることなんてないからな、その鍵で勝手に開けて入っててくれ。あ、でもちゃんと戸締りはしろよ?」

合鍵を自称宇宙人に渡すと、自称宇宙人はそれを不思議そうな顔で眺めていた。それを指で掴んで空に翳したり、下から覗きこんだり、変な行動をとっている。
まあ、素直に喜ぶとは思ってないけど、こうも変な反応が返ってくるとは思わなかった。

でも、これで取り敢えずは希美を優先することができる。
自称宇宙人を気にして、希美の誘いを断って帰らなくても済む訳だ。





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あきゅろす。
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