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現代
5




可愛らしい猫の親子を十分堪能した俺たちは、それからまた土手を一緒に歩いて、途中一休みを加えて帰路に着いた。アルバイトの時間となり、希美と別れた頃には空がうっすらと夕暮れに染まりつつあった。昼間の暑さも幾分か収まって、少しは過ごしやすい陽気となった。

アルバイト中は、希美と一緒に見た猫の親子のことを思い出したり、希美の楽しそうな顔を思い出してやり過ごした。アルバイトも終了時間を近付くと、ふと自称宇宙人のことを思い出した。

そう言えば、自称宇宙人はちゃんと自分の家に帰ったのだろうか……。最近、放課後といったらほとんど俺の家に来ていたが、今日はちゃんと家に来てもあげられないと言っておいたし、大丈夫………だろうか。
今にして思うと、俺が何を言ったところで自称宇宙人の意思を曲げることはなかなかに難しい。昼間のあれで、ちゃんと自称宇宙人は家に来ることを辞めたのだろうか。
そんなことを考えていると、俺はいてもたってもいられなくなり、アルバイトが終わると、直ぐに駆け出し、家に急いだ。

いなければ良い。いや、いない筈だ。
そんなことを思いながらも、俺は全速力で走った。
辺りはすっかり夜の帳が降り、静寂が満ちていた。電柱の光に小さな虫が集っている他は、生き物の姿は見えなかった。

アパートの前まで着いて、息を整える。
部屋の前には、誰も立っていない。
俺の気にし過ぎだったか。
拍子抜けたのもあったが、それ以上に心を占めるこの感情は何だろうか。
―――俺は一体、自称宇宙人に何を求めていたのか。

二階へと続く階段を上り、廊下を進んで部屋の前まで足を進めた。
昨日は、ここに自称宇宙人が立って、俺の帰りをじっと待っていた。
今日は、誰もいない。
何だろうか、それがとても…………。

「…………!」

ポケットから部屋の鍵を出そうとした時、階段を上る誰かの足音が聞こえてきた。
誰か他の住人が戻ってきたのだろう。何となくだが、廊下で他の部屋の住人と居合わせるのは心地が悪い。さっさと部屋に入ってしまおうと、鍵を取り出し鍵穴へ差し込もうとしたとき、慌てていたため、鍵を落としてしまった。
全く、何をやっているんだと自分に苦笑を浮かべ、身を屈めて鍵を拾おうとした時、ふと視界に見覚えのある人物が映り込んだ。

「……………何してるんだ…?」

鍵を拾うことも忘れ、俺は疑問を口にしていた。
階段の方を見てみると、そこには自称宇宙人の姿があった。

「コンビニで待っていた」

淡々とした自称宇宙人の言葉に、頭の中でクエスチョンマークが飛び交った。

「コンビニで待っていた?何を?」

頭にハテナを浮かべて問うと、自称宇宙人は静かに俺の方を向かって指差した。

「――-部屋の前で待っているなって言っていたから」

「コンビニとかどっか涼しいところにいたらって言われたからコンビニで待っていた」

淡々と話す自称宇宙人に、漸く辻褄が合ってきた。

今日、希美と会うから家の前で待っているなと言われたから、家の前で待つのは止めようと思わった訳か。そして、昨日俺が待つなら涼しいところで待てと言ったから、本当に自称宇宙人は涼しいところで今の今まで待っていた訳か。

………でも、待てよ。自称宇宙人は一体何時間待っていたんだ…?アルバイトに行っている時間、だけじゃないよな…?恐らく、俺が希美と会っていた時間、放課後からずっと俺の帰りをコンビニで待ち続けたと言うのだろうか……?




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