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現代
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「そう………そっか……幼馴染か……」

俺の急場しのぎの返答に、希美は満足したようだった。声色に生気が宿り、段々明るい音へと変わる。そんな希美の反応に、不誠実を働いているようで居た堪れなくなる。
それでも、希美の不安がこれで払拭されるのならばと自分に言い聞かせた。

それから、俺は初めて希美と長電話をした。内容は何の実もないようなたあいも無い話だったが、希美との間の距離を縮めるには十分だった。希美が普段どんなことをしているか、どんなことを思っているか、俺はずっと聞き手となって希美の話に耳を傾けた。

希美の口から出るのは、同じクラスの女子生徒が話すような、やれあのアイドルが良いとか、やれどこそこに新しくオープンしたお店が素敵だとか、そんな世俗に塗れた内容ではなかった。通学路にいた猫の親子が可愛かったとか、学校近くの土手の風が気持ち良いとかそんないまどきの女子高生が興味を示さないようなことに関心を示していた。

希美のそんな話を聞きながら、俺は脳裏で自称宇宙人のことを思い出していた。
自称宇宙人もそう言えば、学校近くの土手を好んでいた。風が気持ち良い、このまま駆け出したいとか言って、本当に実行されたものだから追いかけるのに苦労した。

俺とより、自称宇宙人との方が気が合うんじゃないかと思うくらい、希美と自称宇宙人は似ていた。こんなに感性が似ているのに、何で不仲なのか本当に不思議だ。同族嫌悪…という奴なのか。まあ、そもそも自称宇宙人に他人を受け入れようとする気概が無いのだから、仕方ないかもしれない。希美も俺みたいに根気よく自称宇宙人に接していれば、いつの日か俺のように受け入れてもらえる日が来るかもしれないが、そんな気もない希美には無理な話か………。





「今日は放課後、希美と会ってそのままバイトに行くから、家の前で待っているなよ」

翌日、アルバイトが始まるまでという約束で希美とデートすることになった。
希美を不安にさせたことに対する、俺なりの懺悔の気持ちだった。アルバイト前の僅かな時間だったが、それでもと希美が望んでくれた。学校近くの土手を一緒に歩いて、猫の親子を見に行くことになった。

放課後そのまま希美と会うから、家に戻ることはない。
だから、予め自称宇宙人には言っておくことにした。そうでもしないと、またこの炎天下の中、家の前で何時間も待ち続けそうだったから。

「…………そう」

返事はそれだけだった。いじけたように聞こえるのは俺の驕りだろうか。
そんな俺の考えを否定するように、その後も至って平常通りに自称宇宙人は過ごしていた。

放課後は直ぐにやってきた。終礼後、直ぐに教室を飛び出し希美を迎えに行く。二人肩を並べて、土手へ向かう。
学校近くの土手は、一部の生徒の帰り道となっていた。他の生徒もいる中で、希美と二人歩くのは少し気恥ずかしさを感じる。特に、あの二人って付き合ってたんだーなどと言った声が生徒の間から聞こえると余計に、だ。

そんな俺を余所に、希美は始終嬉しそうにしていた。希美の耳には、他の人間の噂話など入ってこないのかもしれない。俺の横で、俺の肩にも届かないほどの背丈しかない希美を俺は何とも形容しがたい温かい気持ちで見詰めていた。

「ここです!猫の親子を見掛けた場所!」

土手を降りて、川辺まで来ると希美が先行して歩き始めた。
猫の親子を探してきょろきょろと歩き回る姿は小動物を想わせて、希美自身が子猫のようだった。

「いました!馨君!」

どうやら希美が猫を見付けたようだ。俺はゆっくり希美の下へ近付き、希美の指差す方へ眼を凝らしてみた。






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