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お稲荷さまとお嫁さま
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side お嫁さま


お稲荷さまと喧嘩をしてかれこれ一週間。
全くお稲荷さまと口を聞いていません。それどころか会ってすらいないのです。

きっかけは本当些細なことだったはずなのです。下らないこと。今となっては、何故ここまで悪化してしまったのか不思議なほどに。

一人、昼食を採る手は自然と止まってしまいます。いいえ、昼食だけではありません。ここ数日、まともに食事を採った記憶がありません。―――ここまで自分が弱い人間だったなんて。

「………はあ」

本日何度目かの溜め息。
口を開けば溜め息しか出てない気がします。

「おいおい、大丈夫?」

するとそこに、ある人物が現れました。
彼の名前は中嶌 奏(なかじま かなで)
私の初めてできた友人です。
中学1年のときはクラス全員に遠巻きにされ、とても友人が作れるような状態ではありませんでした。
しかし今年。
私は彼という友人を手に入れたのです。
彼は私のことを遠巻きにすることなく話し掛けてくれた唯一の人でした。というのも偶々席が隣同士だったとき、彼が教科書を忘れたのを私が見せたことから何かと話すようになったのですが。

「もしかしてまだ仲直りしてないんだ?」

「…はい……」

たった一人の友人ということもあって、彼には困ったときは何でも相談するようにしています。彼は本当にいい人で親身に私の話を聞いてくれ、いつも適切なアドバイスをくれました。

………どうやらそれがお稲荷さまには気に食わないようです。
今回の喧嘩の原因も、元を正せばそこにあった気がします。

「アルの奴も困ったもんだな」

“アル”とはお稲荷さまのことです。
そう、彼とお稲荷さまとは従兄弟同士で、お稲荷さまがお稲荷さまと呼ばれるようになる前から既に交流のある人なのです。
確かお稲荷さまのお父さまの弟の子どもとか。日本人を母親に持つため、お稲荷さまのような典型的な外人顔ではありませんが、一目でハーフと分かるような端正な顔立ちをしています。
その顔を歪ませ考え込む姿はやはり、絵になるものでした。

「まあアイツのことだから直ぐ根を上げると思うけどな」

しかし、もう一週間です。



私は食欲がなくなってしまい、二度ほど箸をつけたお弁当を鞄に仕舞い込みました。




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