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 恐々ながら紙を開くと、明らかに幼い子供が書いたとわかるたどたどしい文字で、大きく『けっこんとどけ』と書かれていた。婚姻届の間違いだろう。紙には更にこう書いてある。
 『りんはおおきくなったらおねえちゃんのおよめさんになります。ごとう りん』
 子供の頃の自分は婚姻届というものを微妙に勘違いしていたらしい。恥ずかしさで顔が火照ってくる。
「ちょ……、これ、いつの!?」
「あんたが四歳くらいのときだったかなー」
 記憶はおぼろげだが、書いたと言われれば書いたような気もする。
「なんでこんなものいつまでも持ってるんだよ! こんな、子供の落書き……」
「嬉しかったから」
 珍しく照れたような顔で頬を染める鸞の姿に、胸が高鳴る。
「これをくれたあのときからずっと、今でも、あたしの大事な御守りで一番の宝物だ」
 しなやかさと力強さを併せ持つ鸞の手が、今は淋の髪を優しくいとおしげに撫でている。
「でも、姉妹で結婚なんてできないよ」
 そのくらいは小学生でもわかる。もういい大人で、しかも法律の専門家でもある鸞にわからないわけがない。
「国が認めなくたって、あたしが認める。それじゃ不満か?」
 胸がいっぱいで言葉が出ず、ぶんぶんと首を横に振る。
「愛してる。淋は誰にも渡さない」
 鸞は淋をそっと抱き寄せ、淋の額に、瞼に、頬に、そして唇に、ふわりと柔らかな口付けを降らせた。
「だいすき」
 どちらからともなく囁いた声が重なる。
 この瞬間、二人の心も確かに重なっていた――

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