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【目を背けてもいいですか……駄目ですか】
御題配布元:絶望的希望
 テレビの天気予報は大ハズレだった。
 一日中快晴だと断言した気象予報士を恨みつつ、桜花は空を見上げる。
「ついてないわ」
 どしゃ降りというほどではないが、傘をささずに飛び出すには多少の勇気がいる程度の雨足だった。
 本屋の店先で雨宿りをして既に三十分。雨が弱まる気配はない。
 今日はいつも読んでいる雑誌の発売日だった。どこにでもあるような若者向けのファッション誌で、なんとなく買い続けて暇なときに流し読みする程度のものだ。必ず発売日に買うほど好きなわけでもなかった。
 予報士が晴れだと言うから、散歩がてらにぶらりと本屋に来てみたらこの有様だ。
 どのくらい待てば止むだろうか。
 空ばかり眺めていた桜花の耳に、聞き慣れた声が飛び込んできた。
「桜花!」
 目線を下ろすと、刃友の宝田りおなが立っていた。
「りおな……、どうしてアンタが……」
「桜花、傘持っていかなかったでしょ。今ごろ困ってるんじゃないかと思って、心配で迎えにきちゃった」
 出かける際に寮の前でりおなと鉢合わせし、どこに行くのかしつこく聞かれて近くの本屋だとは言ったが、まさか迎えにくるとは思わなかった。そして、もう一つ、気になることがある。
「そのわりには、一本しか傘がないようだけど」
 まさかカップルのように相合傘で帰ろうというのか、と問う間もなかった。
「そう、傘はこの一本のみ! というわけで、傘が欲しくば私を捕まえてごらんなさーい!」
「ええぇっ!?」
 予想の斜め上を行く展開に驚く桜花をおいて、りおなは勢いよく本屋の店先から飛び出した。が、次の瞬間、わずかな段差につまずいて盛大に転倒し水溜まりに頭から突っ込んだ。
 走り出したとき、前を見ずに後ろの桜花を見ていたことが災い――いや、彼女にとってこれは災いではなく笑いの神様からの贈り物のようなものなのかもしれない。桜花を見つめるりおなの「今の私、すっごくおいしいでしょ?」とでも言いたげな嬉しそうな顔が全てを物語っている。

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