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頂き物
種も飛ばさねば撃たれまい(銀森)<一夜茸様より>
種も飛ばさねば撃たれまい(銀森)

日本は今期最高の炎天下に見舞われていた。
室外温度37度。
外回りの人間や、運動系部活動の学生はほぼ全滅。
あまりの暑さに熱中症で倒れる者が続出するなか、銀二と森田は避暑地に来ていた。


「ただいまです。」

「おぅ、お帰り。」


森田はスイカを重そうに片手に持ち、えっちらおっちら洗面台に持っていく。
小さな金だらいの中にスイカを置き、水を流す。
夏の風物詩と相応しいほどのよくある光景で、洗われるスイカを見ていたらこちらまですっきりした気分になれる。


「外は暑かったですよ。まるでサバンナでした。」


森田は白いタオルで汗を拭き取りながら、クーラーの前に立って涼んでいる。
一応、こちらの避暑地には遊びにきたのではなく仕事なのだが。
上手い飯はあるわ、プールつきだわ、冷房効いてるわでそのことをすっかり忘れそうになっている森田。


「ご苦労だったなァ。カタログもんだとこればっかりは良さがわからねぇからな…。」


これ、とはスイカのことだ。
ここでの食事は配達という手法をとっている。
新鮮で美味しいものを選ぶことができるのはいいが、すぐ食べることができないのが難点だ。
それに、送られてくる食材は皆“完璧”に見定められたものなので安心してもいいが、スイカなどの情緒的なものはやはり街の青果店のほうがいい。
その銀二の考えには森田も異論はなく、仕方なしだが手の空いている彼がお使いに出た次第だ。


「今日本当暑いですよ。果物屋のおばちゃん倒れそうでしたもん。」

「各地でも注意勧告がでてるぜ。水分補給と楽な格好で過ごせだとよ。リーマンのあんちゃん達は死ぬだろ。」


銀二がパソコンを操作し、最新のニューストピックを見せる。
どこどこで熱中症、人が倒れた…そんな文字の羅列を見て、森田はうすら寒さを感じた。
いくら美味しいスイカが食べたくても、こんな日和に使いに出すか!?
まぁ移動手段は車だけど…。


「おい。そろそろいいころなんじゃねぇか?」

「え?」

「スイカだ。」


森田は水場が溢れそうになっているのに気づくと慌てて水を止めた。
いい具合に冷えたスイカは手にひんやりと心地好さを与えてくれる。
そのスイカに刃をたてて、ゆっくり割いていく。


皿に盛られたスイカを見て、銀二は嬉しそうに目を細めた。
光に当たり、赤くキラキラ輝く様はルビーを思わせ、食欲をそそる。
その赤い宝石にガブッ!とむしゃぶりつきたくなるが、残念ながら種が邪魔をする。
スイカとはそのもどかしさも美味しさのうちだと銀二は知っていた。

森田はちまちまとスプーンの先で種を取り出す作業をしている。
そういえば一緒にスイカを食べる奴に、一人はそんな奴いたなぁと思い出していた。
ミカンのすじもいちいち取ってから食べるタイプなのだろうか。


「みみっちい食べ方すんなァ。」

「種があると食べづらいじゃないですか。」

「だからって…見栄えがよくねぇぜ?そりゃ。」

「腹におさまればいいんですっ。」


森田はつーんとすませて、パクパクと食べはじめた。
確かに形が変わったからといって、味が変わるもんでもないが。


「だいたい種って邪魔ですよ。メロンみたいに真ん中に集結しとくか、りんごみたいに少ないかしてもらいたいです。」

「おいおい、そんな言い方ねぇだろ?」


銀二は皿の上にぷっと種を吹き出して言った。
そういえば、種飛ばしも風物詩のひとつだなとか思い出しながら。


「種があるから色んな食いかたができるんだ。たったひとつそれがあるだけでだぜ?…俺ァ、面白いもんだと思うがな。」


確かにそうだ。
森田はほじくり出した種を見て思い出した。
種を吐くのは行儀が悪いから、他所様のところでは先に取り出しなさいと言われていた。
いつのまにかそれが癖になっていたんだなぁ…と思った。
昔の自分はスイカが大好きで、口を思いっきり開けてシャクシャク食べていたんだっけ。
その種を口に溜めて、父親と縁側からどこまで飛ぶか競っていたりも…。

なんだか懐かしい思いに駆られて、森田はまっすぐ銀二を見つめた。


「銀さん。種飛ばししましょうよ!」

「ほぅ…また懐かしい遊びを。」

「俺、ガキの頃は近所で一番だったんすよ!」

「はは、じゃあ俺も負けてらんねぇなァ…?」



ベランダに二人立ち、種を含んで力一杯吹き出した。
その種をどこまでも飛ばそうと、二人共必死になって。
ここに年齢の差はなかった。
同年代の子供みたいに、一生懸命バカなことに時間を費やした。
まるで童心に帰ったかのようでとても嬉しかった。



















その話を安田は半分キレ気味に聞いていた。
あの猛暑の中を自分は汗だくになりながら駆けずり回ったというのに。
こいつら何をしているんだ…。
特に森田てめぇ種飛ばしただけじゃねぇか…!
その怒りは隣の巽も同じくのようで、サングラスの奥からは怒りの炎がちらついているのがわかった。


「あれ?二人ともどうしたんですか?」


巽と安田は森田の両脇をかかえ、背筋が凍りつくほどの笑顔を森田に向けた。
その表情で森田は何故か地雷を踏んでしまったのだと悟った。
抵抗虚しく、彼は安田と巽に抱えられて…どこへ言ったのかは定かではない。

しばらくスイカに恐怖する森田を銀二は不思議に思っていた。









終わり







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一夜茸様のサイトで35000番を踏んで、頂いてきました小説です。
ご無理を言ってもらってきました、夏の銀森vv
これからはスイカを見るだけでにやにや出来そうです、こんなことしてる二人が見られるならば、夏だってばっちこい!
種飛ばしに全力になる二人が非常に微笑ましくて可愛いですv

本当にありがとうございましたvv

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