[携帯モード] [URL送信]

藤(夢)
子供扱い(巽夢)
キーボードを叩く音を聞き飽きたので、私はパソコンに向かい合って一切こちらを向いてくれない彼の背中にえいやっとしがみついた。返ってきたのは苦笑交じりの声と自分の腕を掴む大きな手。
「なに、邪魔するなって」
「つまらないんですー」
良い子に待ってろって言っただろ、なんて言われたから、もう十分良い子にしてました、と返してやった。
「巽さん、構って」
「忙しいの。無理なの分かるだろ」
こちらを向いて頭を撫でてくれたけど、またパソコンに向き合う。膨れっ面になりながら椅子の隣にしゃがみこんだ。
「子供扱いして…」
ぼそぼそと抗議して、膝を抱えれば巽さんは苦笑いして、ぽんぽんと頭を軽く撫でた。嬉しいけど、やっぱり子供扱いされてる気がする。どうせ私は巽さんよりずっと年下だ。年下といえば…
「あ、そうだ、銀さんの仲間に若い人来たでしょ!」
安田さんに教えて貰った青年の話を振れば、一瞬キーボードを打つ手が止まった。それに気付かずに私は話を続ける。宙を見ながら安田さんに教えて貰ったとおりに。
「若くて、背は銀さんより高くて、男前な顔で…」
「彼女」
「はい?」
じっとサングラス越しに見つめられる。
「会ったのか?」
「さぁ…どうでしょ」
にっこり笑って返せば、ぐしゃぐしゃと髪を掻き回された。あぁ、せっかくきちんと整えてたのに。
「やっさんの受け売りだろ、会ってない」
「…まだ、ね。でも会ってみたいな…」
安田さんが男前って言うんだから、きっとかっこいいに違いない。しかも、噂ではあの銀さんが骨抜きになってるというではないか。ちなみにこれも安田さん情報。こっちは少し信憑性に欠けるな、と私は思う。でれでれな銀さんなんか想像出来ないし、単に銀さんの相棒として相応しい逸材だ、ということなんじゃないかな。
「会いたいのか?」
「うん」
「なら会わせない」
きっぱり言われて私はびっくりして顔を覗いた。巽さんなら会わせてくれると思ったのに。サングラスにパソコンの画面が写ってよく表情がわからない。口元もなんだかきゅっと締まってて、やっぱりかっこいいな、って思うけど、これ怒ってる?
「どうして?」
「決まってるだろ」
口角がぐっとあがると、あぁ、やっぱりこの人も悪い人なんだな、とそういう笑みになる。普段優しく笑うのと全然雰囲気が違うのだ。でもやっぱりかっこいいのだ、この人は。
「森田が彼女に惚れたら困るからさ」
あ、森田さんって言うんだ、なんてぼんやり思った。
「大体銀さんにだって会わせたくないのに」
「銀さんかっこいいよね、素敵だし、紳士って感じで」
うっとり言えば、こつりと拳骨を落とされた。あ、完全に怒ったらしく、視線と思考がパソコンに向きつつある。少しだけ嫉妬して欲しかった、なんて言っても怒られて嫌われたりしたら一大事なので、私は慌てて宣言する。
「でもでも、一番は巽さんです!」
「あ、そう」
「ほんとです!」
「はいはい」
「銀さんよりも、森田さん、は知らないけど、多分森田さんよりずっと巽さんが好きです!」
「知ってる」
振り向いてにやりと笑われて、私はからかわれていたことをようやく知った。不敵な笑みは最高に反則だと思う。
「可愛いな」
腕を引かれてわしゃわしゃと頭をかき乱され、私は真っ赤になって抵抗する。ちゅっと音を立てて額にキスされて、今度は梳くように髪を撫でられた。もう少しで終わるからいい子にしてな、なんて言われたら、子供扱いって怒れずに、私はやっぱり大人しく待つしかないのだった。


終わり

[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!